姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です


でも、その一夜の経験は素晴らしすぎた。
情熱を知った奈緒は、このままお見合いして結婚する気はとっくに失せていた。

(自分をごまかすのはもうやめよう)

好きなもの、やりたいことは、きっとたくさんあるはずだ。
これまでのからっぽだった自分とサヨナラして、大切ななにかを探したい。

だからお見合いのためだけに、日本には帰らないと決めた。
新しい自分に目覚めた奈緒は、遊びの象徴だったタトゥーを消すことにした。
決心して訪れた病院で、目の前に現れたのは信じられない人だった。

「あなたは……」

あの夜、すべてをさらけ出した相手に再会してしまった。

タトゥーを見られた恥ずかしさ、ホテルに置いて行かれたみじめさで、思わず病院を飛び出していた。

「ごめんなさい」

走りながら、誰にともなく奈緒はつぶやいた。

「ごめんなさい」

誰に対してか、自分でもわからない。

松尾家の娘として大切に育ててもらったと思う。松尾家の力で生きていけることにも感謝している。
その代償の大きさも理解しているが、ただ「ごめんなさい」と言う言葉しか浮かんでこなかった。

たった一夜の経験が、奈緒の人生を大きく変えていた。













< 89 / 125 >

この作品をシェア

pagetop