大嫌いな王子様 ー後編ー
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「伊織、まだ御曹司くんのお父さんとの話してないの?」

「うん…話すきっかけというかなんというか…タイミングがなくて」

「最近よく会ってるじゃん?」

「そうなんだけど…なんか今の暁斗くんに話すと心配を増やしてしまうんじゃないかなぁと思って」

「ふーん…なんでそう思うの?」


なんで……か…


「わかんない。…直感かな?最近の暁斗くん、なんか少し様子がおかしい気がして」

「伊織、ちゃんと“彼女”だね。見直した」

「わぁ!!なにそれ!てか、彼女だもん!」

「あはは!そうだね。でもまぁ、、好きな気持ちはちゃんとマメに伝えなよ?あのヤキモチ妬き王子様には」

「うん、そうだね」



ヴーッ


「え″っっ!!!」
「どしたん?」


スマホに届いたメッセージに手が震えた。





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なんだ…このどデカいビルは。


制服姿の私は入り口の警備員さんにまず止められる。
暁おとの名前を言っても通れない。


ちょっとー!!!
どうしたらいいのよーー!!!!!



「伊織様!!」

すごく聞き覚えのある声が。



「飯田さん!?」

「ウチの大事なお客様だ。お通ししろ」

飯田さんが来てくれたおかげで無事ビルの中に入れた。



それからは特に多く話さず飯田さんについていく。

なんでここに飯田さんがいるんだろう?
あ、暁おとの会社だから当たり前か。
いや…でも私が暁おとに呼ばれたって知ってるのかな?
…ということは、暁斗くんも知ってるってこと!?

黙って来たのヤバかったかな…



「坊っちゃまは本日伊織様がこちらに来ていることは知りませんよ」

私の心を読んだかのような言葉にドキッとした。



「そうなん…ですね」

暁斗くんは帰ったら家で仕事だと言っていた。




エレベーターでしばらく上がると、とても広いフロアに着いた。


「こちらが会長のお部屋でございます」



ドクンッ

なんで呼ばれたか、あえて考えないようにしていた。
別れろって言われたって絶対別れないんだから。
負けないんだから。


ぎゅっと拳を握った。



「伊織様」


私は飯田さんの顔を見る。


「必ず私共があなたをお守りします。もちろん暁斗坊っちゃまも。だから…なにも心配しないでください」


すごいな。


「飯田さんってエスパーみたいですね」

「実はエスパーかもしれません」


さっきまでの不安はどこへやら。
飯田さんのおかげで笑うことができた。

飯田さんがなんでここにいるのか…とかは、今はどうでもいいや。
暁おとと戦わないといけないんだから。



「ご案内ありがとうございました。行ってきます」



コンコンコンッ

「失礼します。…阿部伊織です」

「…あぁ。入れ」


私は会長室のドアをゆっくりと開けた。
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