名も無き君へ捧ぐ
隣のユーレイ君
「ねぇねぇ、戸塚さん、最近明るくなったわよね」
声をかけてきたのは、先輩の笠原さんだ。
1度退社したが離婚し、最近シングルマザーになり戻ってきていた。
「そうですかね、別に変わらないと思いますけど」
更衣室で着替え終わると、深入りされたくないがゆえに早口になる。
「いやいや、分かるのよ私には。彼氏できたんでしょ」
この手の話はどうも苦手だ。
笠原さんは何かと恋バナを持ち込んでくる。
「いませんて。本当に。ではお先に失礼します」
「んもー、つまらないんだからぁ」
「つまらなくて結構でーす」
というのは心の中だけにしておいた。
しかし、明るくなったというのは当たっているかもしれない。
当然、例のあいつのせいで。
腹立つことばかりだからか、ついテンション高めに反応してしまう。
それでも愛嬌の良さで上手くかわされてしまう始末。
空気を読むことはなぜかお手の物で、さすがに仕事中やお風呂トイレでは姿は見えない。
そして大体家の中でしか、姿を現すことはない。
時々、持病の頭痛が酷くなると、なぜか決まって自分の額を私の額にコツンと合わせる。
例え仕事中でも、だ。
いわゆる、それも任務の1つらしいのだが、いまいちピンと来ない。
けれどその数分後、頭痛は和らぐのだ。
いくら任務といえど、かなり際どい行為に抵抗したくなる。
自分だけ恥ずかしがっているのも、癪に障る。
その分薬を飲む量も減って助かってはいたが。
今まで姿が見えない時も、同じことをしていたと考えると、とんでもない変態?にすら思えてくる。
守護霊って、本当に謎だらけだ。