名も無き君へ捧ぐ
「今日天気がいいので、外行きません?僕1人じゃ外出られないの知ってますよね」
そうなのだ。
ただのユーレイではない守護霊だから、何もかも主と共にある。
「寒いんだもん。いいよねー、ユーレイさんは暑さ寒さも感じなくてさ。あっ」
毛布を頭からすっぽり被ったところで、しまったと思った。
これこそタブーではないか。
生身の人間だからこそ味わえる、感じられるもの。
温度。
彼には分からない。
伝わらない。
無神経だった。
「....はぁ。もういいですよ。気遣わないでください。調子狂うじゃないですか。気持ち悪い」
謝ろうにも見透かされてしまっている以上どうすることもできない。
「さすがに気持ち悪いは余計じゃない?ねぇ」
毛布からむくっと顔を出して彼の顔を伺う。
「ほら、さっさと行きますよー」
ケロッとして玄関で待ち構えている当たり、かなり外に行きたがっているらしい。
「も~待ってって、キミはワンコか、お散歩大好きワンコだな」
慌ててパーカーを羽織り、ニット帽を被る。
少し寒いが夕日が綺麗に見える、川沿いの土手へと向かう。
傍から見たら、私1人で歩いているように見えているはず。
本当は隣に冬弥がいるなんて思わずに。
普通の人間だったなら、デートしているように見えるんだろうか。
もう少しおしゃれして歩いてもよかったかな、なんて今は絶対言えない。
向かいから来た、ベビーカーを引いた夫婦らしき男女とすれ違う。
ベビーカーの中の赤ちゃんは、大事そうにぬいぐるみを手に握って笑っていた。
冷たい風が頬に刺さり、びくっとした。
『あの人とあのまま付き合ってたら、あんな未来もあったのかな…』
虚しいだけの架空の未来を思い描いて、勝手に胸が痛み出す。