名も無き君へ捧ぐ

茜色


ある日のこと。

ベッドでゴロンと寝転がって漫画を読んでいた時、チラリと冬弥を覗いた。

さすがにずっと家の中でスーツでいられるのは、こちらとしてもちょっと気を遣う。
なので、オーバーサイズ気味のパーカーを彼にあげることした。
素直に応じてパーカーを着てくれている最近は、すっかりラフな姿にも見慣れた。

もはや完全に居候かヒモメンといった具合にすら見える。


そんな彼は彼で音楽を聴いていた。
私が衝動でジャケ買いしたCDが山積みなったもので、長らく閉まっていたCDプレーヤーを使って。
ユーレイ曰く、形なき波長が音楽の波長と合うと、相当気持ちがいいらしい。
こればっかりは生身の人間には理解できない。
リズムを取って楽しそうに揺れている。


とーやは何で、私の守護霊になったんだろうか…。



パチッと彼と目が合い、反射的に漫画に向き直る。
我ながらあからさま過ぎたか。


「タブーですから」

ガバッと手に持っていた漫画を奪い、冬弥は私を見下ろす。




さすが、ユーレイ。
秒の速さだ。

瞬間移動に心の声のリスニングは凄まじい。
  

「やっぱり、聞こえちゃいましたかー」


「当然です。守護霊についた理由は禁忌ですから。絶対教えません」


「はいはい。分かりましたよ」


下手に心の中で思うことも出来ない。
面倒だ。





バレンタインチョコだって、とっくに気付いているはずだ。
でも、あえてなのか何も触れてこない。
それが何だかむず痒い。


当日までのお楽しみってことで、とりあえず隠していた。

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