名も無き君へ捧ぐ
見えるもの、見えないもの
「まーたお姉こんなの食べてー」
甲高い声が部屋中に響く。
耳を塞ぎたくなる。
今日は朝早くから妹の奈子が来ていた。
「お正月も顔見せないからって、様子見てきてって言われたからさー、案の定だよ」
部屋に入ってくるなり、カップ麺やコンビニ弁当の容器を見て文句をぶちまける。
「本当たまには自炊しなよー。冷蔵庫に入れておくからね」
重そうなバックを下ろすと、タッパーに入った惣菜を次から次へと冷蔵庫に詰め込んでいく。
「じゃ、私これからかーれしーと、お出かけなんで。てか、この部屋やけに寒くない?何かいるんじゃない?」
奈子の鋭い感覚にギクっとして、チラリと冬弥を見る。
「さぁ、今日特に寒いんじゃない?早くかーれしーと行ってらっしゃいな」
「まあいいや、またねー」
嵐が過ぎ去ったかのようだ。
私とは正反対で愛想も良く料理も得意で、学生時代からよくモテる子だった。
口が達者なだけイラッとすることもあるが、料理は確かに美味しいのだ。
冷蔵庫の中身を確かめる。
筑前煮、肉じゃが、切り干し大根、麻婆豆腐に、私の大好き野沢菜のお新香もある。
並べられたタッパーを眺めて手を合わせる。
「感謝」
その隣でなぜか冬弥まで手を合わせている。
「いや、お前もすんのかい。ユーレイがしたら何か意味が変わってきそうだよ」