名も無き君へ捧ぐ
側溝に落ちていたり踏まれたりしたら、取り返しつかない。
私は急いで地面にしゃがみ込み神経を尖らせた。
「わざわざ声を掛けていただいて、探してくださるなんて、本当にありがとうございます」
「いえ、自分だったら絶対絶望しかないって思ったんで。困りますもんね」
「ありがとうございます」
落としたであろう範囲内を手当り次第探す。
聞くところによると、補聴器を付け直そうとして外したところで人にぶつかり、落としてしまったという。
10分近く経った頃、耳元で小さい風が吹く。
姿をさり気なく消していた冬弥の気配。
「救世主登場させます?」
最近では心の中で会話が成り立つようになっていた。
(は?何それ。もしかして、磁波的なやつで見つかるの?)
「ご名答!」
(ちょっと、それ早く言ってよ!時間の無駄になっちゃうじゃん)
「無駄にはなりませんよ。ちゃんと杏さんの手柄になりますから」
(でもそれはっ)
そう言いかけたとこで、また冬弥が居なくなる。
声に出さず口をパクパクさせていたことに不思議に思ったのか、探し物の男性はキョトンとこちらを見る。
私は誤魔化すために苦笑いをした。
「なかなか見つからないですね」
「はい....。本当にすみません。何かご用があれば、そちらを優先させていただいて大丈夫ですから」
「私、諦めてませんから!」
自販機の横に冬弥がふわりと姿を現すと、地面に向けて指を差す。