名も無き君へ捧ぐ

繋ぐ糸

そそくさと会社を出る、あの、お告げの日。



バレンタインデーということを知ってか知らずか、笠原さんはニヤニヤしながら見送っていた。

きっと、何かを想像していたに違いない。



かく言う自分も少しばかり浮き足立っていた。




特に目当てのものが無いけれど、言われるがまま書店へ向かう。

一体何があるというのか。



近年のデジタル化により、本は画面で読んだり或いは、オーディオブックとして聴くものとして扱われるようになった。

そんな時代の流れの影響から、瞬く間に書店は街から消えていたが、駅ビルの中にある書店だけは今も残り続けていた。


久しぶりに来てみたが、やはり印刷特有の匂いには懐かしさも混じり、心地良さが感じられる。


とりあえず向かう先は漫画コーナー。

実写化やアニメ化されたという話題作が、ポップとともに大きく宣伝されている。

興味が無いわけではないが、話題作よりもまだ未開拓の誰も知らない、自分だけが知る面白い作品を探す方がずっといい。
などと、どこか捻くれ者で古参でありたい強気なプライドだ。

大抵はネットで漫画を読み、気に入った作品は単行本で購入していた。
もちろんネットショップで。

全てネットで完結していただけに、直に並べられた漫画を見るのはすごく新鮮であり、宝物を発掘しているかのような気分になった。


"お告げ"のこともそっちのけで、いい作品があれば購入を考えていた。
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