名も無き君へ捧ぐ

魔法の夜


「....さん、....ください」


「さん」



遠くで誰かの声が聞こえた。


「杏さん」


私を呼んでる?
あれ、これって、冬弥の....


「杏さん!」


薄ら目を開けると、私を覗き込む冬弥がいた。


「どうしたの?お腹減った?あ、ユーレイはお腹減らないんだっけか、やっちまった。てへ」


コツンと自分の頭を小突く。


「何寝ぼけたこと言ってるんです。本当に寝ぼけてるだけありますね」

「ふぁ~、何か急に眠くなっちゃって。今何時....?」


欠伸をしつつ携帯を覗こうとしたら、冬弥が遮るように、耳を疑うような事を言い出した。


「プレゼントしたいものがあるんです」

「....え?プレゼント、何急に?」

「ま、後のお楽しみということで。デートに行きましょう」

「ちょちょちょ、何がどうなってんの。プレゼント?デート?気の迷いとかじゃないよね。あ!ひょっとして黄泉の国に連れてかれちゃうの?そーいう結末だったの。やだ怖いユーレイ怖い」

「もー勝手に話作らないでくださいよ。冗談でも黄泉の国は連れていきはしませんし、そんなことしたら僕が怒られるだけです」

「なるほど」



だんだん眠気が取れ頭が冴えてきた。

冬弥から誘い出すなんて、初めてではないけれど、何かあってのことなのだろう。

嬉しいけど、何だか胸騒ぎがして素直に喜べないものもあった。
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