【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「オリヴィエと陛下が、学生時代に恋人だったことは知っていた。彼女が自分の身分を理由に陛下から離れたことも。すべてを知ったうえで彼女と結婚した。だが……もしもオリヴィエが陛下に嫁いでいたのなら、金に苦労することなく、子どもも幸せに暮らせていたのではないのか……そう考えてしまった」

 カースティン男爵は机の上に肘をつき、手を組んでうつむいた。陛下と結婚するのなら、王妃か側室か……どちらにせよ、自分と結婚するよりも良い暮らしができるのだと考えた、ということよね? そこに、彼女の気持ちはあるのかしら……?

「そんな、そんなの……!」

 マーセルが拳をぎゅっと強く握って、わなわなと震えた。彼女を落ち着かせるように、背中をぽんぽんと優しく叩く。

 弾かれたように顔を上げたマーセルに、緩やかに首を横に振った。感情に飲み込まれてはいけない、と。

 マーセルはわたくしを見て、ぐっと言葉を()み込んだようだった。

「お父さまは、それでお母さまが幸せになると思っていたのですか?」
「そうだ。借金で苦しむよりは、彼女も生活に余裕ができて良いだろうと……」
「……ふぅん、独りよがりだね」

 そこまで黙って聞いていたレグルスさまが、呆れたようにつぶやく。

 その言葉に、カースティン男爵が顔を上げた。
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