〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
 掲示板の最後の書き込みは2分前。誰が書き込んだかは内容で一目瞭然だった。虫の知らせか、こういうものは普段は見ないくせに自分の悪口が書いてある時に限って見てしまう。

……いや、わざと餌を蒔いて愛佳は確認したかったのだ。獲物が餌に食い付く瞬間を。

 冷めた眼差しで匿名掲示板に書き込まれた文字を追う。
カフェの店内で盗み聞いた風を装ってはいても、あのカフェ内でアフタヌーンティーフェアを楽しむ人々の中に、愛佳を快く思わない人間が居合わせていたとは思えない。

最後の書き込みの主は十中八九、小夏だろう。

 掲示板に自分の書き込みがあると知ったのは昨年の秋。学祭のミスコンで準グランプリを獲得した直後だった。

グランプリと準グランプリは出来レースだの、主催者と枕営業しただの、当時の掲示板には準グランプリの愛佳やミスコン優勝者を中傷する書き込みで溢れていた。

 いつの間にかインスタグラマー専用のスレッドに愛佳の話題が書き込みされるようになり、インスタのフォロワー増加に比例してアンチの数も増えていった。

 掲示板に書かれる内容には時折、愛佳に近しい人間でなければ知り得ないような、愛佳に関するかなりコアな情報も混ざっていた。その書き込みを見かけるたびに膨らむ友人への疑惑。

(小夏は私が掲示板を見てないと思ってるんだろうね)

 どこで誰に見られているかわからない。電車に乗り合わせた乗客にフォロワーがいる可能性はゼロではない。

銀座線の列車内に愛佳は澄まし顔で乗り込んだ。数分前まで閲覧していた自分の悪口の羅列を記憶から消して、今の彼女の脳裏にあるのはこれから行うサロンモデル撮影のこと。

 表参道駅を下車して北青山方面に歩く。表参道らしい洒落た外観の店が並ぶ細い路地に、愛佳が大学一年の頃より通い続けているヘアサロン、dearly《ディアリー》はある。

 三階建ての建物の二階がdearlyだ。一階はインテリアのセレクトショップ、三階はネイルサロン。

二階の大きな窓辺から誰かがこちらに手を振っている。それがいつも担当してくれる美容師の玉置理世だと気付いた愛佳は理世に手を振り返して、二階に続く外階段を上がった。
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