〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
だけどひとつわかるのは、傷付けた側は傷付けた事実を忘れても、傷付けられた側は一生その傷を心に刻んで生きていく。
血を流していた傷もやがては瘡蓋《かさぶた》となり古傷となり、見た目には治癒されたように見えても、何かの拍子に目に見えない傷は痛み出す。
人はそれをトラウマと呼んだ。
下山彰良と祐実も、誰も傷付けずに幸せを掴んだわけではない。
「自分の人生が上手くいってない時に、元カレとその女は幸せに笑ってる。……あいつらの幸せをぐちゃぐちゃに壊してやりたくなった。自分達だけ勝手に幸せになるなんて許せなかった。単なる八つ当たり」
現時点での理世と彰良の双方から得た調書によると、理世は祐実のツイッターとインスタグラムを、祐実も理世のツイッターとインスタグラムを互いにネットストーキングしていた。
彰良は再三、理世とはもう関係がないから理世のSNSを見るのは止めろと祐実に注意したが、祐実は聞き入れなかった。
祐実は彰良の元カノの存在が気になって仕方がなかったのだ。
振られた女と乗り換えた女、水面下でマウンティングをし合う理世と祐実の争いは2年も続いた。
下山祐実のツイッターには、理世を皮肉ったと思われるエアリプライが何件か残っている。その件を理世に尋ねると、泣き笑いしていた彼女は辛辣に吐き捨てた。
「あくまでもフォロワーには“自分は悪口を言われてる被害者”で取り繕ってたんだよ。エアリプを心配して声かけてくれたフォロワーに、元カノのツイッター見て不愉快になってたって素直に言えば可愛げもあるのにね。祐実は自分の分が悪くなる情報は絶対にSNSには出さない。あの女はそういうプライドの高い女なの」
押収された理世のスマートフォンには、下山彰良と祐実のありとあらゆる個人情報のデータが保存されていた。美夜は理世のスマートフォンのフォルダから、ある画像を選択して表示する。
「この画像は宅配便の伝票よね。届け先は下山彰良さんになってる」
「これで今の住所がわかったの。彰良も馬鹿なんだ。伝票の住所隠さずに宅配物の荷物の写真をツイッターに載せてて、後で慌てて消したけどスクショ撮ればデータはこっちに残るのにね」
理世のスマートフォンの画像フォルダには彰良と祐実のツイッターのスクリーンショットの他にも、祐実の顔写真が大量に保存されていた。
「ネットは一度流れた情報は二度と消えない。アイツらはそんなこともわからずに、馬鹿みたいに自分達の個人情報をツイッターに垂れ流してるの。祐実のツイッターには夜勤で次の日は休みって書いてあった。夜勤明けなら昼間は家にひとりでいる。全部ツイッター見ればわかること。だから私にこんな簡単に復讐されるんだよ」
城東警察署に到着するまでに事件の概要とそれによって起きたネットでの騒動は把握している。
血を流していた傷もやがては瘡蓋《かさぶた》となり古傷となり、見た目には治癒されたように見えても、何かの拍子に目に見えない傷は痛み出す。
人はそれをトラウマと呼んだ。
下山彰良と祐実も、誰も傷付けずに幸せを掴んだわけではない。
「自分の人生が上手くいってない時に、元カレとその女は幸せに笑ってる。……あいつらの幸せをぐちゃぐちゃに壊してやりたくなった。自分達だけ勝手に幸せになるなんて許せなかった。単なる八つ当たり」
現時点での理世と彰良の双方から得た調書によると、理世は祐実のツイッターとインスタグラムを、祐実も理世のツイッターとインスタグラムを互いにネットストーキングしていた。
彰良は再三、理世とはもう関係がないから理世のSNSを見るのは止めろと祐実に注意したが、祐実は聞き入れなかった。
祐実は彰良の元カノの存在が気になって仕方がなかったのだ。
振られた女と乗り換えた女、水面下でマウンティングをし合う理世と祐実の争いは2年も続いた。
下山祐実のツイッターには、理世を皮肉ったと思われるエアリプライが何件か残っている。その件を理世に尋ねると、泣き笑いしていた彼女は辛辣に吐き捨てた。
「あくまでもフォロワーには“自分は悪口を言われてる被害者”で取り繕ってたんだよ。エアリプを心配して声かけてくれたフォロワーに、元カノのツイッター見て不愉快になってたって素直に言えば可愛げもあるのにね。祐実は自分の分が悪くなる情報は絶対にSNSには出さない。あの女はそういうプライドの高い女なの」
押収された理世のスマートフォンには、下山彰良と祐実のありとあらゆる個人情報のデータが保存されていた。美夜は理世のスマートフォンのフォルダから、ある画像を選択して表示する。
「この画像は宅配便の伝票よね。届け先は下山彰良さんになってる」
「これで今の住所がわかったの。彰良も馬鹿なんだ。伝票の住所隠さずに宅配物の荷物の写真をツイッターに載せてて、後で慌てて消したけどスクショ撮ればデータはこっちに残るのにね」
理世のスマートフォンの画像フォルダには彰良と祐実のツイッターのスクリーンショットの他にも、祐実の顔写真が大量に保存されていた。
「ネットは一度流れた情報は二度と消えない。アイツらはそんなこともわからずに、馬鹿みたいに自分達の個人情報をツイッターに垂れ流してるの。祐実のツイッターには夜勤で次の日は休みって書いてあった。夜勤明けなら昼間は家にひとりでいる。全部ツイッター見ればわかること。だから私にこんな簡単に復讐されるんだよ」
城東警察署に到着するまでに事件の概要とそれによって起きたネットでの騒動は把握している。