〜Midnight Eden〜 episode3.【夏霞】
捜査資料の記載には被害者、下山祐実の夫の彰良と理世は2年前まで交際していたとある。理世が殺害した祐実は元彼の妻だ。
「下山彰良とあなたが別れたのは2年前よね。このタイミングで彼の奥さんを殺害するなら、まだ下山彰良に未練があったの?」
「あるわけないでしょ。彰良よりもいい男はいくらでもいる」
元恋人を蔑《さげす》む理世は、即座に未練からの犯行を否定した。それでは何故、別れて2年が経過した男の家庭を今さら壊す必要がある?
「神田さんは絶対に振り向いてもらえない人に片想いした経験はある?」
「ろくに恋愛をしてこなかったから、人に話せるだけの経験がないの」
「そっか。セフレの経験もない?」
「ないよ」
隣室で九条もこの会話を聞いている。もしもここで美夜がセフレ経験があると答えれば、彼は驚いて卒倒するかもしれない。
「私ね、店長のセフレだったんだ」
「店長ってあの男の人?」
「うん。1年以上そういう関係を続けてた。私は店長が好きだったけど店長が私をどう思っていたかはわからない。こんな事件起こして店に迷惑かけちゃったし……嫌われたかな」
元恋人の下山彰良に対しては鼻で嘲笑う態度を見せていた理世が、ヘアサロンの藍川店長の話になると伏せた目元を潤ませた。
「お店もうすぐ無くなるの。店長、あの店畳んで実家に戻るんだって」
「お客さんは沢山入っていたじゃない。繁盛しているように見えたよ」
「今まではね。でも来年からビルの家賃が値上がりするらしくて、契約更新が難しくなったんだ。店の営業も年内で終わる。スタッフは全員知ってるよ」
2020年開催の東京オリンピックの影響を受けて東京都の地価は軒並み上昇傾向にある。理世の職場が所在する港区も、地価が上昇している地域だ。
「落ち着いたら実家の近くでまた店を始めるって言ってたけど、ついて来てとは言われなかった。付き合ってもないから当然だけど、店長からは結婚の話すら出なかったの。おまけに店長の友達に告白されて、店長はその人を後押してさ……」
職場は年内で閉店、好きな男とは身体の関係以上を望めず、自暴自棄になったということか。
「彰良とあの女が結婚したのって今年の4月なんだよね。店長と入ったラブホのベッドで、祐実のツイッターを見たの。結婚しましたって報告のツイートにフォロワーからはおめでとうの言葉の嵐。あの女と彰良が付き合った経緯を何も知らないで結婚祝ってるフォロワー達が滑稽で、ツイッター見ながら笑えてきたよ」
天井を仰いだ理世は一度鼻をすすった。彼女の瞳を溢れる涙は止まらない。
「あの時かな。虚しくなって、人生やってられないって思ったんだ。私は好きな男にもセフレとしか扱ってもらえないのに、私から男略奪した浮気相手の女は、そのことは自分の友達やフォロワーには秘密にして、ちゃっかり結婚してSNSで幸せアピールしてる。彰良も浮気して女傷付けたくせに何事もなかったように周りには好青年ぶってる」
理世が経験した悔しさが美夜には理解できなかった。
「下山彰良とあなたが別れたのは2年前よね。このタイミングで彼の奥さんを殺害するなら、まだ下山彰良に未練があったの?」
「あるわけないでしょ。彰良よりもいい男はいくらでもいる」
元恋人を蔑《さげす》む理世は、即座に未練からの犯行を否定した。それでは何故、別れて2年が経過した男の家庭を今さら壊す必要がある?
「神田さんは絶対に振り向いてもらえない人に片想いした経験はある?」
「ろくに恋愛をしてこなかったから、人に話せるだけの経験がないの」
「そっか。セフレの経験もない?」
「ないよ」
隣室で九条もこの会話を聞いている。もしもここで美夜がセフレ経験があると答えれば、彼は驚いて卒倒するかもしれない。
「私ね、店長のセフレだったんだ」
「店長ってあの男の人?」
「うん。1年以上そういう関係を続けてた。私は店長が好きだったけど店長が私をどう思っていたかはわからない。こんな事件起こして店に迷惑かけちゃったし……嫌われたかな」
元恋人の下山彰良に対しては鼻で嘲笑う態度を見せていた理世が、ヘアサロンの藍川店長の話になると伏せた目元を潤ませた。
「お店もうすぐ無くなるの。店長、あの店畳んで実家に戻るんだって」
「お客さんは沢山入っていたじゃない。繁盛しているように見えたよ」
「今まではね。でも来年からビルの家賃が値上がりするらしくて、契約更新が難しくなったんだ。店の営業も年内で終わる。スタッフは全員知ってるよ」
2020年開催の東京オリンピックの影響を受けて東京都の地価は軒並み上昇傾向にある。理世の職場が所在する港区も、地価が上昇している地域だ。
「落ち着いたら実家の近くでまた店を始めるって言ってたけど、ついて来てとは言われなかった。付き合ってもないから当然だけど、店長からは結婚の話すら出なかったの。おまけに店長の友達に告白されて、店長はその人を後押してさ……」
職場は年内で閉店、好きな男とは身体の関係以上を望めず、自暴自棄になったということか。
「彰良とあの女が結婚したのって今年の4月なんだよね。店長と入ったラブホのベッドで、祐実のツイッターを見たの。結婚しましたって報告のツイートにフォロワーからはおめでとうの言葉の嵐。あの女と彰良が付き合った経緯を何も知らないで結婚祝ってるフォロワー達が滑稽で、ツイッター見ながら笑えてきたよ」
天井を仰いだ理世は一度鼻をすすった。彼女の瞳を溢れる涙は止まらない。
「あの時かな。虚しくなって、人生やってられないって思ったんだ。私は好きな男にもセフレとしか扱ってもらえないのに、私から男略奪した浮気相手の女は、そのことは自分の友達やフォロワーには秘密にして、ちゃっかり結婚してSNSで幸せアピールしてる。彰良も浮気して女傷付けたくせに何事もなかったように周りには好青年ぶってる」
理世が経験した悔しさが美夜には理解できなかった。