〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
『下山祐実の十万の使い道を夫は知らない。学生の身分の芹沢小夏に十万の出費は痛手のはずが、小夏が十万円分の買い物や支払いをした形跡はなかった。二人の家族も彼女達が何に十万を使ったのか、心当たりがないそうだ』

 重課金者と使い道不明な十万円の行方。〈agent〉の資料と共に芹沢小夏の捜査資料を眺めていた九条はある事実に気付く。

『一課長、小夏の殺害方法も絞殺ですね。それも凶器は太さ八ミリの園芸用と思われるロープ。増山の解剖はこれからですが、おそらく凶器も瀬田と同じタイプのロープですよ。まさか……』
『早合点《はやがてん》は禁物だぞ。小夏と瀬田や増山の殺害方法の類似は、慎重に捜査を進めていく方針だ』

 以前にも絞殺事件があった。九条がデリヘル嬢連続殺人の捜査をしていた春、九条の上司の小山真紀と杉浦誠が別件の事件で捜査を抜けていた時期がある。

あの上中里《かみなかざと》主婦絞殺事件も犯人の目星はつかず、事件から半年が経過しても未解決のままだ。
(【episode1.春雷】参照)


『九条と南田には、下山祐実と芹沢小夏と同じ条件で実際に〈agent〉のゲームをプレイしてもらう。期限はひとまず今月末までだ』

 被験者に提示された課題は二つ。
ゲームの時間は1日2時間程度。必ず業務時間内に行い、その日のゲーム内容をレポートにまとめて翌日に上野に提出。

ゲームの進行に必要なアイテムには課金を惜しまず、課金額は〈agent〉アプリの課金最高額である八万になるようにプレイすること。
ゲームにかかった費用は全額、警視庁が負担するため被験者の金銭的負担はない。

『被験者はお前達を含めて五名。捜査一課の被験者は九条と南田だけだ。お前達の上司の小山と伊東には話がついている。よろしく頼むぞ』

 捜査一課で自分達だけが被験者に指名された。南田は口元を引き締めつつも上野直々の指名に嬉しそうに返事をしていたが、九条は自分が選ばれた理由を知りたくなった。

『あの……どうして被験者に俺達が選ばれたんですか?』
『これは犯罪者の心理に近付く危険な行為だ。ゲームに夢中になりすぎる者は、犯罪心理に同調してしまう恐れがある。必要なのは犯罪に呑まれない、より強い精神力と好みにそぐわないゲームを毎日続ける忍耐力だ。一課の刑事では九条と南田が適任だった』

 クライムアクションゲームを毎日続ける精神力と忍耐力があるかと言われると、九条は即答できない。犯罪者になりきるゲームなど、九条が最も嫌うジャンルだ。

でもこのゲームをプレイすることがデータ収集となるのなら、もしかしたら未解決の事件を解決する手掛かりとなるのなら、やるしかないと腹を括った。
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