〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
『何かあったらいつでも俺達の事務所に駆け込んできな。うちの社長は業界では信用できるから』
「はい。ありがとうございます」

 海斗の善意は素直に嬉しいが、海斗の所属事務所には頼れない。世間から後ろ指を指される立場の自分と関わることで、もし海斗やUN-SWAYEDが悪口を言われたらと思うと怖かった。

自分のせいでUN-SWAYEDの評判を落としたくない。こうして人目がない所で二言三言、海斗と話せるだけで充分だ。

 海斗が去った後、しばらくひとりでぬるめのミルクティーを飲んでいた咲希のスマートフォンが着信する。

{咲希、今どこ?}
「ごめんなさい。トイレに行ってたの。すぐにメイク落として帰る準備します」

 通話相手は、前は莉愛の専属マネージャーで現在は咲希と凛々子のマネージャーの国本和志だ。彼女は飲み終えたミルクティーの缶を廊下のゴミ箱に捨て、楽屋の方向に足を向けた。

{あ、待って。凛々子を送った帰りに事務所に寄るよ。社長が呼んでるんだ}
「呼ばれてるのって私だけ? やっぱり本番でダンス間違えたの怒ってる……?」
{そうじゃないよ。事務所に咲希を訪ねてきた人がいるんだ}

歩きながら話す咲希の歩みが止まった。

「訪ねてきた人って誰?」
{僕も詳細は聞いてないんだけどね、とにかくお客さん待たせているから、早く来てって言われてる}

 国本に急かされて咲希は楽屋に急いだ。衣装を脱いで私服に着替えた優奈と楽屋の側ですれ違っても、互いに挨拶はしない。

 今日のフルリールのスケジュールでは20時から1時間生放送の音楽番組が最後の仕事。
個々のスケジュールだと果林が23時台のラジオに出演する以外は、咲希も優奈も凛々子も今からはプライベートの時間だ。

 すれ違った優奈はやけに化粧が濃かった。今から遊びに出掛けるにしても、既に21時半を過ぎている。

優奈は頻繁に六本木や麻布のクラブや会員制バーに出入りし、そこで出会った男達と夜の東京を遊び回っている。
クラブ通いを社長やマネージャーに注意されていたが、今も出入りを止めていないようだ。

(優奈の予定なんかどうでもいいや)

 優奈がスキャンダルを撮られようが、男に騙されて泣かされようがどうでもいい。自業自得だ。
優奈にはいずれ天罰が下る。そうじゃないとこんな理不尽な世の中、やっていられない。

悪人には天罰が下ればいい。
そう願うことは果たして罪になるの?
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