〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 落ち着かない秋の天気に振り回されて、テラスの植物達も元気がない。伶の母と同じ名を持つ紫苑の花も花瓶に残るのは最後の一輪になってしまった。

 花の手入れを済ませて夏木伶が室内に戻ると、妹の舞はリビングの大きなテレビを独占していた。

舞は高倉咲希の移籍会見の生中継を観ている。毛嫌いしていた咲希が本当は望月莉愛の友人であり、推しだと称して応援していた小柴優奈は薬物中毒だった。
その小柴優奈を手にかけた犯人が兄だとは夢にも思うまい。

「咲希って良いとこどりだよね。咲希だけが自分の思い通りの結果になって悔しいって言うかぁ、納得いかないって言うかぁ……」
『それがビジネスってものだよ。ビジネスとして考えれば、高倉咲希の移籍の判断は妥当だと思う』
「ええー、なんか気に入らなぁい。UN-SWAYEDも好きだったけどぉ、一気に嫌いになりそう。舞は、嫌いな人間が仲良くしてる人のことも嫌いになっちゃうタイプだもん」

 舞は伶が手作りした紅茶のクッキーを尖らせた口で貪っている。片手にクッキー、片手にスマホを携えてソファーに怠惰に寝転がる舞は、動物に例えるならナマケモノだ。

『スカートめくれてパンツ丸見え。少しは気を付けなさい』
「お兄ちゃんしかいないのに気を付けなきゃいけない意味がわかんない」
『お兄ちゃんしかいなくても、寝転がった時のスカートの裾くらいは直せよ』
「はいはい」

 注意をすればすぐに口答え。伶の言うことをまるで聞かない舞は、リビングに入ってきた愁を見た瞬間に髪とスカートを整えて跳ね起きた。

凄まじい変わり身の速さだ。だらしない姿は兄の前では見せられても、好意を抱く男に対する羞恥心はかろうじて失ってはいないらしい。
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