〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
警視庁では24日の午前中から査問《さもん》委員会が開かれていた。警護を担当しながらみすみす犯行を防げなかった美夜の行動が、警視庁内でも問題視されている。
決議の結果、美夜には5日間の謹慎処分が下された。
今回の事件では弁護士会からも警察の不手際を指摘するクレームが届いている。形だけでも何らかの処分を下さなければ、さらなる窮地に追いやられる美夜を守るために上野一課長は苦渋の決断を下したのだ。
『こっちのことは気にしなくていいから、今は家でゆっくり休め。身体と心を休めることも刑事には必要だ』
「はい。……失礼します」
上野から謹慎を言い渡された美夜は会議室を辞する。
寝不足と精神的な疲労が相まって足元がふらつく。駆け込んだトイレで嘔吐した吐瀉物は苦い胃液のみ。
昨夜から何も口にしていない。こんな状況では腹も空かない。
抱き締められた愁の腕は、美夜が欲していた唯一無二のぬくもり。殺人現場で交わしたキスの感覚も心に残って離れない。
昨夜の自分は刑事ではなかった。愁との再会に夢中になって警察官の本分を忘れてしまった、ただの女に成り下がっていた。
10年前の春の雨と同じ、また命を見殺しにした。
フラッシュバックする雨の記憶。死ぬ直前の佳苗の怨めしそうな瞳がこちらを睨んでいる。
佳苗の顔がセピア色に褪せた伊吹大和の死に顔と重なって、二人が美夜を睨んでいる。
絶対に許さない……佳苗の声で聴こえた幻聴に美夜は両耳を塞いだ。
いつになったら佳苗の記憶から解放されるの?
いつになったら佳苗を見殺しにした過去が赦《ゆる》されるの?
昨夜の件を問い質したくても、トークアプリに送ったメッセージは既読無視、再三かけた電話には一度も出ない。
彼は美夜が刑事と知っていて抱き締めて、刑事と知っていてキスをした。
初めて会った春の相席の時点では、互いの名前も知らなかった。
いつから? どこで? どうやって愁は美夜の素性を知った?
とにかく愁と会って話をしなければ。
愁と話がしたいのは刑事として?
それとも女として?
彼に手錠をかける覚悟も決められないくせに……。
捜査一課のフロアに繋がる渡り廊下に見慣れた長身がいた。相棒の顔を見て安心するなんて、よほど疲れている証拠だ。
『顔色悪いぞ、優等生』
「元からこういう顔です。……5日間バディなしになってごめん」
『構わねぇよ。そのうちの2日は俺も休みだ。バディ不在は3日、どこかの班から補充が来るさ』
所轄時代に合同捜査でチームを組んだ当時から、九条大河とは絶対に馬が合わないと思っていた。
お喋りでお節介で感情的な九条は美夜とは真逆の性質。被害者にも加害者にも感情を入れ込む彼の思考は、許容はできても理解はできない。
決議の結果、美夜には5日間の謹慎処分が下された。
今回の事件では弁護士会からも警察の不手際を指摘するクレームが届いている。形だけでも何らかの処分を下さなければ、さらなる窮地に追いやられる美夜を守るために上野一課長は苦渋の決断を下したのだ。
『こっちのことは気にしなくていいから、今は家でゆっくり休め。身体と心を休めることも刑事には必要だ』
「はい。……失礼します」
上野から謹慎を言い渡された美夜は会議室を辞する。
寝不足と精神的な疲労が相まって足元がふらつく。駆け込んだトイレで嘔吐した吐瀉物は苦い胃液のみ。
昨夜から何も口にしていない。こんな状況では腹も空かない。
抱き締められた愁の腕は、美夜が欲していた唯一無二のぬくもり。殺人現場で交わしたキスの感覚も心に残って離れない。
昨夜の自分は刑事ではなかった。愁との再会に夢中になって警察官の本分を忘れてしまった、ただの女に成り下がっていた。
10年前の春の雨と同じ、また命を見殺しにした。
フラッシュバックする雨の記憶。死ぬ直前の佳苗の怨めしそうな瞳がこちらを睨んでいる。
佳苗の顔がセピア色に褪せた伊吹大和の死に顔と重なって、二人が美夜を睨んでいる。
絶対に許さない……佳苗の声で聴こえた幻聴に美夜は両耳を塞いだ。
いつになったら佳苗の記憶から解放されるの?
いつになったら佳苗を見殺しにした過去が赦《ゆる》されるの?
昨夜の件を問い質したくても、トークアプリに送ったメッセージは既読無視、再三かけた電話には一度も出ない。
彼は美夜が刑事と知っていて抱き締めて、刑事と知っていてキスをした。
初めて会った春の相席の時点では、互いの名前も知らなかった。
いつから? どこで? どうやって愁は美夜の素性を知った?
とにかく愁と会って話をしなければ。
愁と話がしたいのは刑事として?
それとも女として?
彼に手錠をかける覚悟も決められないくせに……。
捜査一課のフロアに繋がる渡り廊下に見慣れた長身がいた。相棒の顔を見て安心するなんて、よほど疲れている証拠だ。
『顔色悪いぞ、優等生』
「元からこういう顔です。……5日間バディなしになってごめん」
『構わねぇよ。そのうちの2日は俺も休みだ。バディ不在は3日、どこかの班から補充が来るさ』
所轄時代に合同捜査でチームを組んだ当時から、九条大河とは絶対に馬が合わないと思っていた。
お喋りでお節介で感情的な九条は美夜とは真逆の性質。被害者にも加害者にも感情を入れ込む彼の思考は、許容はできても理解はできない。