パーフェクト・フィグ


皆の反応を聞いてか、
奥から医局長の東郷(とうごう)
また一段と成長した大きなお腹を抱えて
顔を出した。


「あ、期待の新人、帰還したか」


表情も口調もいたって真面目だが、
柔らかい声でこういうことを言う人だ。

雅俊は徐々に言葉にし難い
この感覚を思い出してきた。


「復帰して早々申し訳ないんだけどね、
 生後3日の心臓、お願いできるかね」

「早々ですね」


雅俊は表情を変えることなく言った。


「おまけに松島つけとくからさ」


そう言って振られた、
茶髪に潤を真似たかのようなパーマの
若者が立ち上がった。


「色々教えてあげてよ」

「よろしくお願いしますっ
 藤原パイセン!」

「…」


雅俊は近づいてきた松島(まつしま)
真顔で見つめ、再び東郷に向き直った。


「情報もらえますか」

「あれ、もしかして松島のこと見えてないか」


印刷した術前情報を受け取って
雅俊はサッと目を通した。

東郷が笑っている皆の方を見て
あくまでもクールに続けた。


「まあそうだよね、
 俺もたまに見えない時あるし」

「ちょ、ひどいっすよ、東郷先生」


松島がそう言うと再び笑いが起こるも、
雅俊は生後3日の子の情報に
とても笑える気にはなれなかった。

無論、元から笑うタイプではないのだが。


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