外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
3 かしこまりました
 Crockettの亮太が居る、目の前に立っている。

(夢? それとも似ている人?)

 どちらにしろ本物と思えない。でも、わたしを混乱状態にするのに充分なインパクトで。パクパク、金魚みたく口は開閉するのみで言葉を生産できない。

「ん? 喉が渇いたのかな? こっちにおいで、お水をあげる」

 指の第2関節まである袖口で奥を示す。ぼんやり間接照明が灯る方へ目線を巡らせるも足が動かなかった。強力な磁石で張り付けられたみたく固まる。

「どうしたの? いらない?」

「亮太……」

 やっと出た言葉が、これ。

「うん、そう、亮太だよ。君は僕を知っているんだ?」

 知らないはずがない。なにせ数時間前に会ったばかりだ。

「帰ってきたら一樹はソファーで寝てて、君がゲストルームで寝てて。びっくりしちゃった!」

 抑揚のない話し方は驚いた様子がちっとも伝わってこない。花岡君の名前を聞き、この部屋が彼に関係する場所であると察した。

「ーーっ」

 立っているだけで頭が痛い、胃がムカムカする。

「具合悪い? 大丈夫?」

 こめかみを押さえると亮太と名乗る男性は寄ってきた。スリッパを履いておらず、切り揃えてある爪先が右へ左へ加減を伺う。
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