そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 学年はふたつ違いだが、三月生まれの七瀬に対し、宗吾は四月生まれ。年齢ではほとんど三つ年上になるので、七瀬にとってはかなり大人の印象だ。

 次の春には、同棲をはじめて三年が経つ。まだ結婚について具体的な話はしていないが、宗吾が言葉の端々に「結婚するつもり」と言ってくるから、七瀬もなんとなくその気ではいるのだが……。

 元々男女のあれこれには興味が薄く、学生時代から生活はほぼヨガに全振りしている。その生活スタイルは、宗吾とのお付き合いの中でもほとんど変化していない。結婚願望も大して持っていない。
 当初は、宗吾もそれを理解してくれていたのだが、なぜかこの一年くらいは七瀬の仕事で揉めることが増えた。

 揉めると言っても、早朝や遠方に七瀬が仕事に向かうと、宗吾が一方的に不機嫌になるだけなのだ。七瀬は自分から不満をぶちまけたり、相手の行動を非難したりはしないから。
 仕事を否定されると悲しくなるので、なるべく理解を得ようと立ち回っているのだが、あまりうまくいっていない。

 陣と別れた帰り道、宗吾とのやりとりを思い返し、七瀬は首を傾げた。
 あの物言い、まるで七瀬に専業主婦になれと言っているように聞こえたが……。
 そのとき、コートのポケットに入れていたスマホに着信があった。宗吾かもしれないとあわててスマホを取り出のだが、『シャンティ』のスタッフからだ。

『七瀬先生、夜分に申し訳ありません。今、お話しても大丈夫ですか?』
「大丈夫ですよ。どうかしました?」
『それが、エミ先生がインフルになってしまったそうで……。明日の早朝クラス、池袋スタジオなんですが、七瀬先生、代行で入れませんか? もう時間が時間なので、休講の連絡も間に合わなくて』
「えっ、インフル大丈夫なんですか? 一昨日お会いしたときは元気そうだったのに……わかりました、入れます。エミ先生にはご心配なくとお伝えください」

 ヨガインストラクターはある意味、人気商売でもある。
 七瀬はまだ若く、講師としての経歴は浅い。生徒の新規開拓ができる機会があれば断る手はないのだ。

 代行でもクラスを持たせてもらえるのはうれしいので、ほとんど反射的に承諾してしまったが、二つ返事でオーケーしてから宗吾の顔を思い浮かべ、ずんと気分が落ち込んだ。
 週に二度の早朝出勤もあまりいい顔をされないのに、今朝に続いて明日もとなったら――。

(でも、仕事をすることに罪悪感を抱くのって、ちょっとヘンだよね?)

 何も悪いことなどしていないのに。
 悶々と考えながら、恐る恐る恵比寿の自宅に戻ったのが、二十三時前。

「おかえり」

 もうシャワーを浴びてパジャマに着替えていた宗吾が、そっけなくも迎えてくれた。
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