そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛
 そしてヨガマットの上に正座をすると、再び合掌して深々と頭を下げる。

「陣さん、ほんっっっっとうにありがとうございました!」
「いえいえ、僕こそレッスンにタダ乗りしちゃって、すみません」

 安楽座のままの陣も、合掌で頭を下げてくる。でも、その精悍な顔立ちには楽しげな笑みが浮かんでいた。

「全然! 陣さんが一緒に受けてくださったので、とても楽しかったです。いえ、私が楽しんでる場合じゃないのですが……」
「やっぱり七瀬センセーのレッスン、いいですね。寝起きとは思えないくらい、体がすっきりしました。一日、充実して過ごせそうです」
「ヨガ講師冥利に尽きます。それで、あの……昨日からの事情を、お教えいただけないでしょうか……途中から記憶がなくて」

 レッスンで昇る朝日と共に気分も高揚したが、現実に立ち返ったらやや精彩を欠いてしまった。
 でも、そんな七瀬を見て陣はさわやかに笑い飛ばす。

「そうですね、とりあえず朝食にしませんか。大したものはありませんが」
「な、何から何まで、恐縮です……お手伝いします」
「ベーコンエッグとトーストくらいなので、すぐできますし、センセーはその間にお着替えをどうぞ」

 甘えっぱなしでいるのも申し訳ないが、人様のおうちで七瀬にできることはない。言われるままベッドルームに入って着替え、荷物をまとめて玄関に置くと、そろりそろりとリビングに戻る。
 すると、コーヒーのいい香りが立ち、パンの焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
 心安らぐような空気で、我知らず頬が緩んでしまった。
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