『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!





 いっぱい食べて、プレゼントも渡して、子供たちは座っていることに疲れたのか庭で遊び始めた。

 キャロラインとハロルドは、その様子を微笑みながら見つめている。
 優しい空気が心地良かった。二人の心もぽかぽかと温かい。

 でも、キャロラインはまだ夫に言っていないことがあるのが気がかりだった。あれからタイミングを逃して、ずるずると引き伸ばしていたのだ。

 今がチャンスだと、彼女は意を決して口を開こうとすると、

「済まなかった」

 先に、ハロルドのほうが謝罪の言葉を言ってきた。
 キャロラインは目を丸くして、

「どうなさいましたの?」

 ハロルドはちょっと視線を彷徨(さまよ)わせてから、

「その……。初夜のことだ。私は君に『お前を愛することはない』と言った。だが――」

 ハロルドは、まっすぐにキャロラインを見つめた。
 ドキリと彼女の心臓が跳ねる。アイスブルーの瞳が光に反射して、綺麗だとふと思った。

「だが、私の考えが間違っていた。私は……君を愛している」

「……」

 キャロラインは息を呑む。みるみる胸がいっぱいになった。

 まさか、旦那様も同じことを考えていただなんて!

 嬉しさが弾けていく。感激のあまり、ちょっとだけ目に涙を浮かべた。金色の瞳が輝いて、美しいと彼はふと思った。

「わたくしも、謝ろうと思っていましたの。旦那様に『あなたを愛することはありませんわ』と申し上げたこと」

「っ……」

 ハロルドの不安に満ちた双眸に、光が宿った。
 一番聞きたかった、その言葉に。

「き、君も……」

 ――私のことを愛してくれているのか。

 そう言いたかったが、胸が詰まって言葉が途切れる。

「はいっ! わたくしは、旦那様のことを愛しておりますわ!」

 キャロラインは満面の笑みで言った。そのキュートな笑顔に、彼の緊張が溶けていく。

「そうか……。では、我々は愛し合っ――」

「ロレッタも、レックスも、タッくんも、愛しておりますわ!」

 少しの沈黙。

「は…………」

 それから、ハロルドはかろうじて掠れた声を出した。
 キャロラインは嬉しそうに瞳を輝かせながら、

「だって、皆わたくしの大切な『家族』ですから!」

「は、はは……。家族、か…………」

 彼はもはや乾いた笑いしか(こぼ)れない。

「旦那様は違うのですか?」

 キャロラインが不安げに上目遣いで夫を見てきて、彼はもう肯定の言葉しか言えなかった。

「もちろん、私も、家族として、愛している。ハーバート家の全員を、だ」

 夫と同じ答えに辿(たど)り着いて、彼女は少し照れながら「えへへ」と笑った。
 ハロルドは苦々しい思いをいだくが、微笑む妻が可愛らしいから今日はもう良しとした。

(これは……長期戦になりそうだ)

 ハロルドの戦いはこれからだ。

< 131 / 132 >

この作品をシェア

pagetop