『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
「ちょっと、バーバラ! この女をどっかにやって!!」
ロレッタは振り返って、後ろに付いて来ている中年の女性に声をかけた。
痩せぎすで、栗色の髪をきっちり束ねた彼女は、バーバラ・スミス伯爵夫人。双子の乳母だった。
彼女は一瞬だけ戸惑う素振りを見せたが、喚き叫ぶお嬢様に気圧されて、屋敷の新しい奥様に口を出すことにした。
「恐れながら奥様、お嬢様方が嫌がっております。これ以上はご容赦をいただきたく……」
「嫌がっていても、お授業をサボることは悪いことですわ。この子たちは、貴族としての義務を果たすことを学ばねばなりません」
キャロラインはバーバラを一顧だにせず、ずんずんと教室へと歩いていく。
「もうっ、どうにかしてよ!」
廊下にロレッタの大声が響く。
普段なら屋敷の使用人たちは、おろおろと彼女の機嫌を取るところだが、今日は新しい奥様の手前どう対処すれば良いか分からなかった。
執事長と侍女長だけが、この様子を意外そうに、そして満足げに眺めている。
まさかあの悪名高き侯爵令嬢が、こんなに母親らしいことをするなんて。もしかしたら、彼女なら今の双子のワガママ放題をなんとかできるかもしれない。
ロレッタが喚こうが叫ぼうが抵抗しようが、キャロラインは少しも取り合わず前へ進む。あっという間に教室の前へと到着した。
キャロラインは二人を教室の椅子へ座らせてから、
「仕方ありません。今日は歴史のお授業が終わったら、後は自由時間にしましょう。だから、一時間だけ頑張っててちょうだい!」
「わぁっ! いいの?」と、レックスが満面の笑みを浮かべる。
「もちろんですわ。お勉強が終わったら好きに遊んで構わないわ。甘いおやつも用意しましょう!」
彼女は母として、事前に二人の学習の進捗具合を調べていた。色々と遅れているが、特に学問は大幅に遅れていた。
なので、まずは机に座る習慣を付けるところから始めたほうが良いと考えたのだ。
「やったー! おかあさま、ありがとう。ぼく、おやつのじかんまでがんばる!」
「ふんっ。そうやって、あたしたちをコントロールするつもりね。そうはいかないんだから!」
「ロレッタの好きなチョコレートケーキも用意して待っていますわね」
「ふぁああっ……!」
大好物の名前を聞いた途端、顔が綻ぶロレッタ。ツンケンしているけど、根は子供らしく素直なのだとキャロラインは目を細めた。
こうして、キャロラインの公爵夫人としての初のミッションは、無事成功に終わったのだった。
だが……。
(この子たちの服装……公爵家の子女としては……?)
僅かな違和感が、キャロラインの胸に湧いた瞬間だった。