『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
前世の記憶が戻る前のキャロラインは、スティーヴン王太子に熱烈に恋い焦がれていた。だから愛しの王太子殿下の日々の行動、そして恋のライバルたちの動向には人一倍敏感だった。
彼女は少しでも不穏を嗅ぎ付けたら、それを確かめるために呼ばれてもいないパーティーやお茶会に強引に乗り込んでいたのだ。そこではライバル令嬢を蹴散らし、王太子の婚約者として釘を差していた。
それは非常識極まりない行動なのだが、意外にも貴族の使用人たちからは好評だった。
大小年間100を超える集まりに参加していたキャロラインの審美眼は鋭く磨かれていた。
なので、毎回帰る際にパーティーの良かった点と改善点、さらに面白いアイデアや他の家門のパーティーの様子を必ず教えてくれるのだ。
その内容は、なかなか他の屋敷の状況を知れない使用人たちにとって、貴重な情報源だった。
それに、侯爵令嬢の突撃は抜き打ちテストみたいだ。
貴族の屋敷で働いているという矜持を持つ彼らには、あの緊張感が逆に心地良かったりもした。
(記憶が戻る前のキャロラインの行動はダメダメだけど、あの非常識な行動が今回は役に立つわね)
キャロラインが招待されていないお茶会に乗り込んでも、周囲からは「あぁ、またか」と思われるだけだろう。これ以上評判が落ちることはないので、公爵家の名誉が傷付くこともないはずだ。
……もしかしたら、ハロルドから少〜しばかり、お説教を食らうかもしれないが。
(過去のわたくし、グッジョブ!)
馬車は軽やかに子供たちを追う。目指すは、お茶会の会場だ。
(さぁっ、乗り込みますわよぉっ!!)