『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
食堂は、ざわめいていた。またもや奥様が何かをやろうとしているのだ。
キャロラインは先ほどまでハロルドが座っていた座席――いわゆるお誕生日席の前に立つ。
この長方形のテーブルは、縦1.5メートル横3メートルほどの大きさで、上には豪盛な食事や色とりどりの生花で飾られた花瓶、美しいカトラリーなどが華やかに飾られていた。
ハロルドと子供たちは、キャロラインを囲むようにテーブルに沿って立って、緊張した面持ちで彼女を見つめていた。
(新歓の時より若干サイズが大きいわね。逆に安定してやりやすそうだわ)
キャロラインはテーブルクロスの裾をぎゅっと掴んで、サイズ感や重量を何度も確認した。
緊張感が伝わる。周囲からゆっくりと空気が凍っていくようだった。
それが彼女の集中力を更に高めていく。
息を吸って、吐いて。また吸って。
いざ。
「はあぁぁっ!!」
キャロラインはハロルドの剣術の一閃よりも速く、シーツみたいな長い布を思い切り引っ張った。
――どんがらがっしゃーーん!!
次の瞬間、ハーバート公爵家の食堂は大惨事に見舞われていた。
陶器やガラスの割れるけたたましい音。高価な食器やグラスはバラバラになって、芸術のような見事な料理もかき混ぜたようにグシャグシャになってしまった。ここだけハリケーンが直撃したみたいだ。
「あ、あちゃ〜……ですわ。やっちまいましたわ〜……。大☆失☆敗……」
絶望の沈黙が続いたあと、キャロラインがポツリと呟いた。
「おい……」
すぐに背後から恐ろしいオーラを感じて、彼女はぎこちなく振り返る。
「はっ……!」
そこには、飛び散ったソースや赤ワインで上半身がドロドロになったハロルドが、恨めしそうな顔で彼女を睨み付けていた。
「あ、あら、旦那様。ごめん遊ば……」
「お前ーーっ! ふざけるなっ!!」
彼女が謝罪の言葉を発するより前に、公爵の怒号が屋敷中に響いた。