『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
「はぁ……。申し訳ないですわ……」
ハロルドが一通り怒りをぶちまけた後、キャロラインはしゅんと表情を沈めながらメイドたちに指示を出しはじめた。
「わたくしが片付けるから、あなたたちは掃除道具を持ってきてちょうだい。それから、旦那様とお子たちのお風呂と着替えの準備も」
「はっ、はい!」
「料理長……。折角の美味しいお料理を、粗末に扱って申し訳ありませんでしたわ……」
今度は平民の料理長たちに頭を下げる。公爵夫人のまさかの行動に使用人たちはひたすら恐縮した。
ハロルドも妻の意外すぎる殊勝な姿に面食らってしまい、しばらくの間ぼうっと彼女を見つめていた。
「おかあさまが、おかたづけをするの?」
困惑と沈黙が続く中、レックスが口火を切る。貴族夫人が自ら汚れを掃除するなんて、聞いたことがない。
「もちろんよ。事故ではなく、わたくしが故意に汚したんですもの。責任を取らないといけないわ」
「でも……おかあさまは、きぞくなのに? そんなの、しようにんにやらせればいい、ってバーバラはいつも言っているよ」
「いや、キャロラインの言う通りだ」
ハロルドがモップを持って汚れた床を拭きはじめる。いつの間にか上着を脱ぎ袖も捲り上げて、シャツの染みなんて気にせずに掃除を開始していた。
「旦那様!」
「おとうさま!」
「……!」
軍隊のトップでもある公爵の行動に、今度はキャロラインたちが目を丸くした。ロレッタなんてびっくりしすぎて、口をパクパクさせている。
ハロルドは何でもないような涼しい顔で床を拭き続ける。
「最初にやってみせろと言い出したのは私だからな。連帯責任だ」
「ぼっ、ぼくも!」
次はレックスも雑巾を手に持った。
「ぼくが、テーブルクロスひきの、おはなしをいいだしたの。れんたいせきいんだよ!」
「まぁ! レックスは優しいのね。ありがとう」
「偉いぞ、レックス。それでこそ、ノブレス・オブリージュだ」
ハロルドは息子の頭をポンと撫でる。レックスは父親の言葉がいつもより誇らしく感じた。
「ふんっ! ほんとにマヌケな女ね!」
今度は、ロレッタが散らばった花々を集めはじめながら言った。
「ロレッタ、手伝ってくれてありがとう」と、キャロラインは思わず顔が綻ぶ。
「かんちがいしないで? あたしは、おとうさまのおてつだいをしているだけよ」と、彼女はツンとしたまま答えた。
「そうか。さすが公爵家のレディーだな」
ハロルドがロレッタの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに頬を赤く染めた。大好きな父に褒められると、心がぽかぽかと温かくなる。