『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!





「キャロライン・フォレット侯爵令嬢! 貴様とは婚約破棄をするっ!!」

 キラキラとシャンデリアの光が注ぐパーティー会場に、王太子スティーヴン・グローヴァーの険しい声が響いた。
 彼は目の前の人物を威嚇するように睨み付け、傍らにいる令嬢を守るように片腕で抱きしめている。

(えぇえぇっ! なんですのっ!? ですのっ!? って、なんなんですのっ!?)

 突然の出来事に、聖子――いや、キャロライン・フォレット侯爵令嬢は頭が真っ白になって立ち尽くした。

(えっ……ムーンウォークは!? ――っていうか、この格好では華麗なおムーンウォークができませんわぁっ!)

 今の彼女は、クラゲみたいにふわりと広がっているスカートに、ちょっとの衝撃で壊れそうな細いヒールの、お上品な靴をはいていた。
 これじゃあムーンウォークどころか、軽いステップを踏むのにも一苦労だ。

(困りましたわね……。せめて靴が……いえ、重心をもっと前にずらしたらなんとか……)

 ――と、どうやったら上手くステップが踏めるか真剣に考えていた彼女だったが、

「おいっ! 聞いているのか、キャロラインっ!」

 スティーヴンの怒りの込められた呼びかけに、はっと我に返った。
 おろすおそる目の前を見る。
 そこには二人の男女がいた。己の瞳孔が、ゆっくりと開いていくのを感じた。

(わたくしは……彼らのことを知っていますわ……!)

 ――そして、自分自身のことも。

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