『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!





「わぁ〜! とても美味ですわ〜!」

「ココアに合う最高級の豆を輸入したんだ。ブランデーも、ココアに最適なものを私が直々に選んだ」

「温まりますねぇ〜。ほわぁ〜〜」

 ハロルドはキャロラインを部屋に帰すのではなく、近くの自分の寝室に連れて行った。一刻も早く、冷えた身体の妻を温めなければと思ったのだ。

「それと……」

 彼は鍵付きの引き出しから、小さな箱を取り出す。
 それはハーバート家を示す剣とライオンの家紋が彫刻されていて、貴重な宝石でも入っているのかと思わせるような豪華なものだった。

「これを君に渡そう」

「まぁ……。何かしら?」

 立派な箱から見るに、家門に代々伝わる宝石か何かかしら……と、キャロラインは少し困惑した。
 たとえ今回のお礼だとしても、契約妻の自分がそんな大切なものなんて貰えない。

 どうやって断ろうかと考えていると、

「好きなだけ食べてくれ」

 箱の中には、ハロルドの大好物のウイスキーボンボンがびっしり詰まっていた。

「はっ……!」

 キャロラインは、高価な宝石を少しでも想像した己の欲望を反省した。

「私が選んだ最も美味なチョコレートだ」と、彼は何故か得意げに言う。
 その姿が、まるで褒めてほしがっている大型犬のようで彼女はちょっと彼を可愛く思った。

「これが……噂の『お父様の秘密のチョコレート』ですわね」

「子供たちはそんな風に言っているのか?」

「えぇ。いつか一人だけでチョコレートを食べているところを、現行犯で捕まえるって息巻いていましたわ」

「そ、それは気を付けないとな……」と、彼は本気で警戒した。大好物のウイスキーボンボンに対してはいつだって真剣なのだった。

 常に生真面目で、厳粛な軍人のハーバート公爵。そんな彼の意外な子供っぽい一面を見て、キャロラインはくすくすとおかしそうに笑った。

「むぐぅっ!?」

 その時、彼女の口に彼がチョコレートを放り込んだ。

「隙あり」

「んんんっ……!」

 彼女はもぐもぐと食べ始める。子供たちと一緒に食べるチョコより、ほんのり苦い大人の味。でも中のウイスキーはまろやかで、2つが口の中で溶けるとじわりと甘みが増していく。

「ほっぺがとろけそうですわぁっ……!」

「だろう? 私が一番好きなチョコだ」


 その後も二人は、他愛ない話をしながら、もくもくとウイスキーボンボンを食べた。
 初めて過ごす、夫婦だけの静かな時間。それは穏やかで幸福感に溢れていた。

 キャロラインは、こんな時を過ごすのもいいなと思った。
 そしてそれは、ハロルドも。

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