『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
「おい、何をしている」
その時、キャロラインの頭上から美しい低音ボイスが響いた。
「あ。旦那様」
顔を上げると、ハロルドが気難しそうな顔をして彼女を見下ろしていた。
「い、いらしたのですね……」
キャロラインは微かに顔を引きつらせた。
夫は乳母の断罪以来、家族とよく顔を合わせるようになっていた。子供たちにとって喜ばしいことだが、彼女はちょっとだけ憂鬱だったのだ。
何故なら、よくガミガミと説教をされるからであった。
別に嫌いじゃないんだけど、夫の顔を見ると複雑な気持ちが湧き上がる。
その中には特別な感情が芽生えつつあることを、彼女はまだ気付いていなかった。
「なんだ? 私がいたら悪いか?」
「い、いえ。別に……。ただ、これまで通りにおATMに徹してくださっても構わないのですよ〜」
「おっ……ぃえてぃー? なんだ、それは?」
「家族のために頑張る旦那様のことを、東方の言葉でそう呼ぶのですわ」
特に嘘は言ってない。
「ほう。そうか」
ハロルドはひとまずは納得したようだ。
「おとうさまも、いっしょにバーベキューしよう〜」
「おとうさまのすきな、おにくを、あたしがとってあげるわ!」
双子は嬉しそうに父親に纏わりついた。
乳母のトラウマをまだ引きずってはいるものの、大好きな父親が以前より一緒にいてくれることが多くなったので寂しくなんかなかった。
これにはキャロラインもほっとした。やはり、子育てには父の力は絶大なのだ。
「あちちちちっ!!」
その時だった。背後から野太い男の声が聞こえたと思ったら、
「熱いではないか。馬鹿者!」
「ぎゃんっ!」
キャロラインは頬を思い切り引っ叩かれた。
大トカゲの長い尻尾で。