『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
「っ……?」
目を丸くするハロルド。キャロラインは「きゃー! 言っちゃたぁ!」と顔を赤くしてくねくねと左右に動いている。
(本当に……? ただ意固地になっているのか?)
彼は困惑する。にわかには信じられなかった。
だって、噂だけではなく、実際に彼女は人前で踊っていないのだから。
彼自身、妻の過去の悪評を信じていたことを恥じたが、ダンスの件は紛れもなく客観的な事実だ。
「キャロライン……。恥ずかしがらなくてもいいんだぞ。できなくても、私は笑ったりはしない」
「いえ……。本当に……」
聖子は、大学でヒップホップダンスサークル所属。それにフォレット侯爵令嬢も運動神経が抜群だ。
そんな二人の融合体は、ダンスが苦手なわけがない。
むしろ、国中で一番の踊り子だと自負している。キャロラインはいつだって自意識過剰なのだ。
「ふぬ……」
ハロルドは顎に手を当てて、しばし考え込む。どうやら嘘をついているわけではなさそうだ。
たしかに、彼女は苦手なものは苦手だとハッキリと自己主張をする人間だった。
(では、あの噂は一体なんだったのだろうか……。それに、得意ならなぜ頑として踊らなかったのだろうか)
それはフォレット侯爵令嬢の黒歴史なのだが、もうそのことは絶対に語りたくなかった。
あのクソヴォケクズカス王太子――略してクソ太子なんか、顔も見たくない!
「では、実際に踊ってみませんか?」
キャロラインは夫に向かって、ちょっと恥ずかしそうに手を伸ばす。
人とペアで踊るダンスは、転生してから初めてだった。それに気付いた瞬間、なぜだか羞恥心があふれてきたのだ。
ハロルドは彼女の手を優しく受け取った。
ピアノの侍女長に目配せをする。
ポロン、と鍵盤の音が鳴り響く。
二人は両手を掴んで身体を密着させる。
「いくぞ。1、2、――」