『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

「なっ……!」
「えっ……」

 思いも寄らない言葉に、二人とも固まった。ハロルドは焦燥、キャロラインは驚愕だ。

「キャロライン夫人、知ってるか? ハロルドのやつ、最近は毎日君との惚気話(のろけばなし)ばかりしてるんだぜ? 参ったよ〜」

「あらぁ〜……」

「おいっ! デタラメを言うな! 私はそんな話は一度も――」

「昨日だって『キャロラインに自分と色を合わせたドレスを贈った』って自慢してたじゃないか」

「っ……」

 ハロルドの顔がみるみる真っ赤になった。
 別に、ただの世間話だし、夫婦が色を合わせるのは当然のことだし、何も特別なことでは……。

「まぁ〜っ、旦那様っ!」

 キャロラインは喜色満面で言う。

「そんなにわたくしのことを気に入っていらしたのね! もうっ、ロレッタに似て素直じゃないんだからぁ〜!」

「ちっ……ちがっ……」

 いや、違わない。

「わたくしはハーバート公爵家の立派な! 自慢の! 女主人ですからぁ〜!」

 キャロラインは調子に乗りまくる。彼女は自意識過剰な自惚(うぬぼ)れ屋なのだ。
 ちなみに、男女の色恋に(うと)い彼女は、違う解釈をしているようである。

「オーホッホッホッホッ!」
「わはははは!」

 キャロラインとルークの笑い声が見事にシンクロした。

「だから二人の顔を合わせるのが嫌だったんだ……」

 ハロルドはがくりと肩を落とした。

「じゃ、今日は夫婦で楽しんでくれたまえ」

 ルークはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら去る。
 残された二人は、恥ずかしさが微妙に混じったほんわかした空気に包まれていた。



「はっ。どの面下げて夜会に参加したのだか」

 しかし、柔らかい空気は、すぐに掻き消された。
 キャロラインの黒歴史が襲撃してきたのだ。
 
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