『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!


 しばらくの静寂のあと、

「――っふ。ははははは!」

 スティーヴンが勝ち誇ったように大声で笑った。隣に立つナタリーも「きゃははは」と下品に声を上げて笑っている。

「認めたな! この女は、身分を笠に着て他人(ひと)を貶めるような下劣な女なのだ! 可哀想なナタリーは、この女のせいで散々苦しめられてきた。とんだ悪女だ!」

「っ……」

 周囲の視線が痛い。ハロルドの顔がまともに見られない。
 刺すような空気に耐えられなくなって、会場から出ていこうと踵を返す。

 ――ガシッ!

「……!」

 刹那(せつな)、ハロルドが妻のか細い手首をしっかりと掴んで、その場に(とど)まらさせた。
 そして、

「妻は確かに謝罪をしました。――では、そちらも妻に謝罪していただきたい」

 王太子の瞳を()め付けながら、力強く言い放った。

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