『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

 ハロルドの瞳がギラリと鋭くなった。

「他にもございますよ。殿下のお時間がよろしければ、ここで全ての事柄について話し合いをしましょうか」

 スティーヴンの顔がみるみる青ざめていく。
 だが、ハロルドは攻撃を止めるつもりはない。カードはまだわんさかあるのだ。

「まさか未来の王族(・・・・・)になるお方が、後ろ盾を使って他人を責めるだけ責めて、己の非は決して認めないなど……ございませんよね? 仮にもこの国の頂点に立とうという方々(・・)が」

「ぐっ……」

 スティーヴンは右手をぐっと強く握りしめた。この場に誰もいなければ、この屁理屈ばかりの男を殴り倒すところだった。

 悔しい。まさか公爵ごときにこうも言い負かされるとは。こいつのせいで今日の計画が台無しだ。

(なんとか形勢逆転しなければ……。っ……!)

 その時、彼はある事実(・・)を思い出す。
 それは公爵が今主張していることを、そのまま跳ね返す逆転の一手だった。

「公爵は、下の身分の者が上位の者に無礼を働くのは重罪だと言ったが……」

 王太子の口元が弧を描いて吊り上がった。

「今この瞬間の貴公がそうでないのか? 位の低い未熟な女性の小さな失敗(・・・・・)を必要以上にあげつらって、王族である私の名誉を貶めようとしている」

「……」

 ハロルドは黙り込む。腹の底で荒れ狂う怒りをなんとか沈めていた。
 泥で濁ったような空気が充満して、周囲に不穏な影を落としている。

 勝った……とスティーヴンは思った。だが、貴族たちの呆れを通り越した冷ややかな視線が、公爵ではなく自分たちに注がれているのに気付きもしなかった。
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