『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!



「助かった。悪いな、ルーク」

「いいってことさ。ここらで止めないと、お前は王太子の王室費の不当な使い道まで追求するつもりだっただろ? あれは、もっと大事な時のためにとっておかないと」

 スティーヴンは国庫からの予算のかなりの額をピーチ男爵家に費やしていた。
 その他にも、恋人との婚約を結ぶために、他人の功績を男爵令嬢のものとしたりやりたい放題だったのだ。

「……全部、ぶちまけるつもりだった」

「やっぱり」彼は呆れたように肩をすくめる。「ま、それだけ夫人に本気だってことだよ、キャロラ――あれ? 彼女は?」

「えっ……」

 ハロルドが隣を見ると、妻の姿はどこにもなかった。
 いつの間にか手の平に伝わる熱も引いていて、さっきまで強く握っていた感触だけが微かに残っているだけだった。

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