『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!


 ――ぽすり。

 その時、冷え込んだキャロラインの身体の上に、まだ(ぬく)もりの残っている礼服の上着が落とされた。

「前にも似たような夜があったな」

「旦那様……!」

 大きく見開いた瞳には、いつの間にかハロルドが映っていた。彼は穏やかな表情で景色を眺めている。

「あの時は、私が君に励まされたな。今も感謝しているよ」

「そうですか……」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。あの時は乳母たちを断罪して、ずっと自分を責め立てていた夫を元気付けに行ったんだっけ。

 ……本当は、自分にはそんな資格なんてなかったのに。

 沈黙が、静かな夜に溶けていく。
 キャロラインだけが穏やかな空間に似合わずに、身体を強く強張らせていた。

(……旦那様に言われてからじゃなくて、ちゃんと自分からけじめをつけなければいけませんわ)

 彼女はちょっとだけ躊躇して胸に手を当てたまま固まっていたが、意を決して夫の真正面を向いた。

「旦那様、申し訳ございませんでしたっ!!」

 深々と頭を下げる。今夜の二度目の謝罪。罪悪感が大波のように押し寄せてくる。
 震える手でぎゅっとドレスの裾を掴んで、嫌な汗が止まらなくて、ずんと頭が重たくなった。
< 91 / 132 >

この作品をシェア

pagetop