『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!
――ぽすり。
その時、冷え込んだキャロラインの身体の上に、まだ温もりの残っている礼服の上着が落とされた。
「前にも似たような夜があったな」
「旦那様……!」
大きく見開いた瞳には、いつの間にかハロルドが映っていた。彼は穏やかな表情で景色を眺めている。
「あの時は、私が君に励まされたな。今も感謝しているよ」
「そうですか……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。あの時は乳母たちを断罪して、ずっと自分を責め立てていた夫を元気付けに行ったんだっけ。
……本当は、自分にはそんな資格なんてなかったのに。
沈黙が、静かな夜に溶けていく。
キャロラインだけが穏やかな空間に似合わずに、身体を強く強張らせていた。
(……旦那様に言われてからじゃなくて、ちゃんと自分からけじめをつけなければいけませんわ)
彼女はちょっとだけ躊躇して胸に手を当てたまま固まっていたが、意を決して夫の真正面を向いた。
「旦那様、申し訳ございませんでしたっ!!」
深々と頭を下げる。今夜の二度目の謝罪。罪悪感が大波のように押し寄せてくる。
震える手でぎゅっとドレスの裾を掴んで、嫌な汗が止まらなくて、ずんと頭が重たくなった。