『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!



「見て! ハーバート夫妻よ」

「あら……素敵ね」

「やっぱりお似合いの二人じゃない?」

 キャロラインとハロルドが再び会場に戻ると、またもや貴族たちの注目の的になった。
 到着時と対照的な黒い衣装は、金糸の刺繍がシャンデリアに映えて発光しているようだった。

 夫妻は一度足を止めると、ハーバートがキャロラインの手の甲に軽くキスをした。

「キャロライン。私とダンスを踊っていただけませんか?」

「はい! 喜んで!」

 視線を交わして頷き合って、ダンスホールの中央へ進む。そして身体を密着して踊り始めた。まずは緩やかなワルツだ。

「うわあぁ……!」

 ダンスを囲っている貴族たちから、上品な歓声が湧く。
 これまでに一度もダンスを踊ったことのない、ド下手くそと噂されているあの(・・)キャロラインが優雅に舞ってみせたのだ。
 彼らは驚きを隠せず、また夫人のしなやかな動きに目を奪われた。

「あの噂って、嘘だったの……?」

「公爵家で猛練習したということかしら?」

 いろんな憶測が囁かれる。令嬢時代は悪い噂ばかりで、キャロラインのことをあまり良く思っていない者たちも多かった。
 でも、さっきの謝罪といい、噂と全然違うじゃないか。

「いや……。短期間でここまで仕上がることはない」

 一人の貴族がぽつりと呟いた。

「公爵夫人が元からダンスが得意だったとしたら……」

 周囲の貴族たちは、その先の言葉を想像して息を呑んだ。
 もし、キャロラインが令嬢時代からダンスが得意としていたのだったら、王太子が彼女の邪魔をしていたということだ。

 不穏な予感を(はら)んだ空気は、じわじわと社交界を侵食していく……。

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