それらすべてが愛になる
 キッチンの棚を開けて、洸に買ってもらった小花柄のマグカップを取り出す。

 引っ越してきた翌日、洸にプレゼントしてもらったマグカップだ。
 この前の洋服は受け取れず断ったので、これが洸からの最初で最後のプレゼントになった。

 このマグカップに、何度も淹れてもらったカフェラテ。
 同じマシンで同じように作ったはずなのに、なぜか自分で淹れるのよりも美味しかった。

 もう飲めないんだなと思うと、また目に涙が溢れそうになって袖で乱暴に擦る。

 (このマグカップは思い出にもらっていってもいいかな…)

 割れないように洋服とタオルでくるんで、スーツケースの中にしまった。


 窓の外では、さっきより雨が強くなって本降りになっている。
 イタリアに着いた初日も雨だった。もしかして雨女なのだろうか、とこんなときにそんなどうでもいいことが頭に思い浮かんだ。


 ―――そろそろ、行かないと。

 最後に、カウンターに置かれたミントの葉をそっと撫でて、元気でねと声をかけた。


 玄関で靴を履いて、もう一度振り返る。


 「今まで、ありがとうございました」


 清流はスーツケースを引いて、五ヶ月暮らした部屋を後にした。

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