それらすべてが愛になる
 「部長は何か聞いてないんですか?」

 「…何も」

 それがぼんやりしている原因か、と舞原は理解する。

 洸の下について分かったことは、洸は自分が信頼する相手に遠慮されるのを嫌うということだ。

 持って生まれたリーダー気質か上に立つ立場がそうさせるのか、洸にとって遠慮されるのは信頼されていないことと同義で、見過ごせない性格なのだろうと舞原は理解していた。

 「考え事してるっていうか、心ここに在らずみたいな。でも仕事は全然ミスしないし、むしろ普段より気合入ってる感じだったんで、気のせいかもしれないんすけど」


 『すみません、ちょっと考え事をしていて』


 この前の日曜日、確かに清流はそう言っていた。

 目の前にいるのは清流本人で、リビングから外を眺める背中も見慣れているはずなのだが、まるで透明の膜を張っているかのように何度呼んでも反応がなかった。
 掴みどころがなく、それ以上話しかけることも憚られるような、妙な違和感。

 冗談めかして額をはじけば、話題が逸れて安心したように小さく息をついたのが分かった。それが、自分には言えない何か抱えていることを示しているようで、胸の奥がざわついた。


 ―――このとき、嫌な顔をされようと問いただしておけばよかったのだと、後から振り返ったときに思う。

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