それらすべてが愛になる
 言いようのない空気を変えたくて、出かけようと誘った。

 自分が運転する車に乗りたいと言われたときは驚いたが、初めのころに話した会話を覚えていたのだろうかと思うと、違うほうに心が揺さぶられたのを覚えている。

 どこかぎこちなかった車内での会話も次第にいつも通りになって、あれこれと言い合いながら買い物をして、時間が過ぎるのを忘れた。

 出掛ける前に覚えた違和感は自分の杞憂だったのかもしれない。

 車に戻って、助手席で安心したように眠る姿に少し距離が近づいた気がして―――また、遠ざかった。


 『……ごめんなさい、私、受け取れません』

 傷ついた、というほど大げさなものでもない。
 が、何かが喉の奥に引っかかったように、常にあの表情が頭から離れない。

 (清流の方が、よっぽど傷ついたような顔をしていた)

 初めて買ったマグカップのように、最初は遠慮して断られるのは想定していた。

 清流がどこか遠慮がちなのは、初めて会ったときからずっと変わらない。
 だから、そうなれば強引に押し切るように渡してしまうつもりだったのだが、なぜかできなかった。

 いっぱいに溜まった涙が今にも零れ落ちそうな瞳に、手を伸ばすこともできず、ただ戸惑っている間に、清流の姿は部屋へと消えた。

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