それらすべてが愛になる
 「そうじゃなくて、直属の上司と部下じゃなくなったからこれで気兼ねなく婚約者アピールできるだろ?それが嬉しいって言ってんの」

 洸の言葉にぽかんとしてから顔を赤くした清流を、正面から抱きしめる。

 「た、洸さん!準備しないと、皆さん来ちゃいますよ?」

 準備といっても食材や飲み物などは事前に注文を済ませているので、こちらで用意するものはもうほとんどない。軽くつまめるものやサラダ、清流が作ったキッシュも焼き終わっている。

 それらを屋上テラスへと運ぶのは、これからやってくる全員に手伝わせたらいい。
 それくらいは許されるだろうと洸は勝手に開き直った。

 「あいつらが来たら、しばらくおあずけだから」

 身勝手な理由に、やや性急なキス。

 腕を掴む指先に力が入るも押し返されないのをいいことに、軽くついばみながら柔い感触を堪能する。

 「心配しなくても経営企画課とは関わりはあるぞ。経営会議にも役員会議にも出席するし、変な資料よこしたら容赦しないから」

 「ええっ、そこはフォローに回ってくださいよ…」

 少しだけ情けない声を出す清流に笑って、鼻先に軽くキスをする。

 ひゃ、と反射的に後ろに引いた体を逃がさないように引き寄せて、もう一度唇にキスしようとしたとき―――ピンポーンとインターフォンが鳴った。

 「皆さん、来たみたいです!」

 そう言うと洸の腕からするりと抜けて、はーいと勢いよくインターフォンに出た。
 ガヤガヤとモニター越しに賑やかな声が聞こえると、清流は廊下から早く早くと急かしている。

 その無邪気な仕草に毒気が抜かれて、洸はやれやれと先に進む清流の後に続いて廊下を歩く。


 「…あ、一つ忘れてました」


 玄関のドアを開けようとして清流の手が止まる。

 何を?と尋ねようとしたとき、洸の唇に不意に何かが掠めた。


 「好きですよ、洸さん」


 必死に背伸びをしていた清流が照れたように笑う。

 その顔が花がほころぶようだと思ったのと同時に、リビングの窓から届く暖かな日差しに、改めて春の訪れを肌で感じた。


 どうかこの平穏な日々がずっと続くことを――ささやかな世界の片隅でそっと願った。



 Fin.


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