エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「いや? 君が悪いわけじゃないでしょう。株主だというんなら、評判を落とすようなことは避けた方がいいんじゃないですかね」
 莉桜は心の中では喝采を送りたいくらいだが、そんなことをするわけにもいかないので丁寧に頭を下げるに留めておいた。
 5Aの客は「ふんっ」と荒めの鼻息を飛ばし、ブランケットをかぶってさっさとふて寝してしまう。

「ご迷惑をおかけいたしました」
 莉桜は通路で再度頭を下げた。
「気にしなくていい。相手が女性だというだけで横柄になるタイプのようだから」
 今まで気づかなかったが低くてよく響く声だった。美声と言ってもいいかもしれない。
 それにつられるようにして顔をあげた莉桜はその彼がとても端正な顔立ちであることに気づく。
 それだけではない。明らかに身体に合うように仕立てたと思しきスーツは素材まで高級なものだし、莉桜が見上げるほどの長身は百八十センチを超えているのではないだろうか。
 切れ長の目元とすっきりと通った鼻梁、少し薄めの唇が笑みを浮かべていた。

「まあ、あなたならなんとかできたんでしょうが、つい口を出してしまった」
「恐れ入ります。申し訳ございませんでした」
 確かに素敵な人だが見とれているわけにもいかない。莉桜は再度丁寧に頭を下げた。
 親切心ではあると思うがお客様に迷惑をかけてしまったことは間違いがない。
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