エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
 中から返事が聞こえた。間違いない。あの美声だ。
 すらりと個室のドアが開けられる。先ほどはスーツを着ている状態だったが、もうくつろぐところだったようで、ジャケットを脱ぎネクタイも外してシャツのボタンも緩めていた。
 そんな姿さえ色香があふれんばかりでどきりとしてしまいそうだ。

「先ほどは弊社社員にお気遣いいただき、ありがとうございました。安全運航へのご協力に感謝いたします」
 大島が丁寧に伝えて、頭を下げるのに莉桜も一緒に頭を下げた。
「そんなことは構いませんよ。今時珍しい人でしたね」
「お邪魔いたしました。残りの飛行時間をごゆっくりお過ごしくださいませ」
「わざわざありがとう」
 大島と再度頭を下げ、莉桜と大島はギャレーに戻る。

「驚いたわ。すごく素敵な方だったのね」
 とても驚いているようには見えなかったが大島は驚いていたらしい。素敵だという意見には莉桜も同意しかなかった。
「はい。紳士で困っている人にはためらいなく声をかけられるって素敵ですよねぇ」
「そうね。世の中には素敵な人がいるものよね」

 一瞬そんな話で盛り上がっていたら、そこへもう一人のビジネスクラスの担当者である福原が戻ってきた。福原は次期パーサー候補とも言われているベテランだ。
「あら、盛り上がっているのね」
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