エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
「あ……」
 頬を撫でた手は顎に添えられて、ゆっくりと顔を仰のかせられた。端正な五十里の顔が近づいてくる。思わず莉緒は目を閉じていた。
 いつものグリーンとムスクの香りがした。
 柔らかく唇が重なる感触があり、肩から背中へと触れた手に抱き寄せられる。

 ハグのような感じで軽く抱きしめられたことは何度かあったけれど、キスは初めてで、その唇が重なる感触に鼓動が大きくなるのを感じた。
 そっと唇が離れたあと「明日の夜、また迎えに来る」と耳元でささやかれて、こくりと莉緒は頷いたのだった。


「うーん……」
 五十里に送ってもらった翌日のことだ。今日は夜、五十里と一緒に食事へ行く約束になっていた。
 莉緒はベッドの上に持っている服をたくさん広げて悩んでいたのだ。

 五十里は仕事帰りなのだろうから、スーツだろう。そうするとあまりカジュアルな服ではちぐはぐでおかしくなってしまう。
 かといって気合いが入りすぎていても恥ずかしいような気もする。

「これかな」
 悩んだ末に、シフォン素材の重なっている濃紺のワンピースを選択する。
 シンプルなデザインなのだが、シフォン素材で華やかさもある。デートには最適なのではないだろうか。
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