本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~

※川口直人 44

 翌朝――

 カーテンの隙間から光が差し込み、目が覚めた。そして腕の中には愛しい鈴音が静かな寝息を立てて眠っている。
昨夜、気付けば夢中になって真夜中まで鈴音を抱いていた。そのせいで疲れさせてしまったかもしれない。

「ごめん……鈴音」

彼女を起こさないようにそっとベッドから起き上がると洋服を着こみ、改めて鈴音を見つめた。鈴音も俺も何も服を着ないままベッドの中で眠っていた。

「風邪……ひかせるといけないな」

そこでクローゼットからハンガーにかけてあったシャツを取り出すと、鈴音を起こさないようにそっとシャツを着せると頬にキスした。

「鈴音……ありがとう。大好きだよ」

そして布団を掛けると、キッチンへ向かった――


****

 コーヒーを持って部屋に戻ると、だぶだぶのシャツを着た鈴音がぼ~っとした様子でベッドの上に起き上がっていた。

「あれ? 起きたんだね?」

「あ……お、お、おはよう……」

すると鈴音は真っ赤な顔をして挨拶を返してきた。その姿があまりにも愛らしい。手にしていた2人分のマグカップをテーブルの上に置くと、ベッドの上の鈴音に近付き、抱きしめて耳元で囁いた。

「おはよう、鈴音。そのシャツ姿……すごく可愛い。良く似合ってるよ」

「あ、ありがとう……」

鈴音のすべすべした頬に軽くキスする。その後、2人で目覚めのコーヒーを飲んだ。


2人でベッドの上に座り、隣で俺の大きすぎるシャツを着てコーヒーを飲む鈴音をちらりと見る。
本当に夢のように幸せだった。まさか鈴音とベッドを共にして、こんな風にコーヒーを飲める日が訪れるとは思いもしなかった――


****

「本当に一度帰らないと駄目なのかい?」

玄関に立つ鈴音に尋ねる。

「うん……洗濯回さないといけないし……。着替えもしたいから……」

何故か鈴音は頬を染めている。今日は2人共仕事が休みだからずっと一緒にいたいのに……。

「また戻ってくるよね?」

気付けば子供の様なお願いをしていた。

「う、うん……勿論」

そこで玄関の上に置いておいた予備の鍵を1つ手渡した。

「え? 何? これ……」

「この部屋のマンションの鍵だよ」

「そう。それじゃ今借りていくね?」

「ずっと持っていていいよ」

何故借りていくと言うのだろう?

「え? え!? い、いくら何でもそれはちょっと……」

「どうして? 俺たち……恋人同士になったんだろ?」

「そうだけど……でも……」

「ごめん。無理にとは言わない。いいよ、鈴音の好きにして。持っていてもいいし……返さなくてもいい」

鈴音を困らせているのだろうか?

「う、うん……それじゃ今だけ借りるね」

鈴音はポケットに合いカギを入れ、靴を履いて出て行こうとする。そんな鈴音に触れたくなった。このまま二度と帰ってこないのではないかと不安になったからだ。

「鈴音」

「え?」

ふり向く鈴音を抱き寄せ、柔らかな唇にキスをする。

「!」

鈴音が一瞬驚いた様に目を見開き、真っ赤になって俺を見た。

「行ってらっしゃい。待ってるから」

「は、はい……行ってきます……」

鈴音は逃げる様に玄関を出て行った。

「参ったな……」

扉が閉じるとポツリと呟いた。
まさか、これほど鈴音に溺れてしまうなんて……。

「とりあえず、食事の準備が終わった後に部屋の掃除をするか……」

昨夜の情事で乱れ切ったベッドの上を見ながらため息をついた――


****

 米を研いで炊飯器にセットし、豆腐とわかめの味噌汁、ほうれん草の胡麻和えを作った。

「後は鮭を焼いて……そうだ、鈴音の好きなだし巻き卵を作ればいいか……。冷めるといけないから鈴音が来てから焼こう」

そこで今度は掃除をする為に部屋へと向かった――


 シャワーを浴び、身体を拭いていると玄関の扉が開く音が聞こえた。きっと鈴音が戻ってきた音だ。
腰にバスタオルを巻き付け、玄関へ顔を出すとそこに立っているのはやはり鈴音だった。何故か玄関に立ったまま、辺りをキョロキョロ見渡している。

「あれ? 鈴音。そんなところで何してるんだ?」

声をかけると、鈴音は驚いたような顔で俺を見て……次に笑みを浮かべた。

「あ、あの……も、戻りました……」

「うん。お帰り」

なのに、鈴音はぼ~っとしたまま部屋にあがって来ない。

「ごめん。シャワー浴びてたから……ん? どうして上がらないんだい? おいで」

手招きすると鈴音が「お邪魔します」と言って上がって来る。その台詞が何となく嫌だった。
そこで鈴音の腕を掴んで抱きしめると耳元で囁いた。

「お邪魔しますじゃなくて、ただいまって言って欲しいな」

「ただいま……直人、さん」

ためらいがちに言う鈴音の身体からは得も言われぬ良い香りがした。

「お帰り、鈴音」

鈴音の顎をつまんで上を向かせ、吸い寄せられるように唇を重ねた――




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