本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~
川口直人 59
どの位の間、鈴音の部屋を見上げていただろうか――
トゥルルルル……
トゥルルルル……
不意にスマホに着信が入ってきた。
まさか……鈴音だろうか?
緊張しながら上着のポケットからスマホを取り出し、落胆した。着信相手は愛しい鈴音からではなく、俺にとっては絶望的な相手からの電話だった。その相手とは……。
『常盤恵理』
「はぁ……」
見慣れぬ名前の表示にうんざりした溜息が漏れてしまう。いっそこんな電話等出ないで切ってやろうかと思ったが、そういう訳にはいかなかった。何故なら俺は父を……そして川口家電の社員を人質に取られているようなものだったから。
出たくなくても出なければどんな事を言われるか分った物では無い。ため息をつきながら電話に出た。
「もしもし……?」
すると――
『遅いじゃない!』
いきなり大きな声が響き渡った。
「何もそんなに大きな声を出す事は無いでしょう?」
『直人が早く電話に出ないからでしょう!』
常盤恵理は早くも呼び捨て呼ぶ。……今日会ったばかりなのに。鈴音の場合は恋人同士になってようやく自分から言い出して名前で呼んでくれるようになったと言うに、この女はたった半日で俺の事を『直人』と、しかも呼び捨てで呼ぶ。鈴音だってまだそんな風に呼んでいないのに……。
「どうもすみません。電話に気付かなかったものですから」
電話に出ながらマンションへと入って行く。
『まぁいいわ。それより今何してたの?』
恋人の部屋を見つめていました……。いっそ、そう言ってしまえればいいのだが……この女にそんな事を言えば何をしでかすか分らない。鈴音にだけは絶対に手を出して欲しくは無かった。
「これから自分の部屋に入るところですよ」
『え? まだマンションに帰っていなかったの?』
「はい、そうです」
『まさか……元恋人の所へ今まで行ってたんじゃないでしょうね?』
元恋人……。
本当にこの女はイヤな言い方をする。大体俺は鈴音に別れすら告げられていないのに? 自分の中では鈴音と別れた実感がまるで無かった。何しろ最後の別れすら告げさせる事を常盤恵利は許してくれなかったのだ。
「いいえ、そんな事していません。大体抜け目ない貴女の事だ……。既に興信所をつけているんじゃないですか?」
俺は辺りをキョロキョロ見渡す。
『……そんな風に思っているのね……』
「当然じゃないですか。貴女なら何でもやりそうだ」
『ええ、そうね。この際だから言わせて貰うわ。貴方はいわば私にお金で買われたようなものなのよ。だから私の言うことは絶対に聞いてもらうからね? 今後は毎日必ず私に電話を入れるのよ。朝と夜には必ずね。メールも絶対に入れるのよ。1つでもこれを怠ったら貴方の父親の会社は終わりよ』
「……分かりました。どうせ俺には何も意見する事は出来ないのだから」
『……まだあるわ、直人。その言葉遣いが気に入らないわ。敬語で話すのはやめてくれないかしら? 気分が悪いわ。私達は婚約者同士なのだから対等な言葉遣いをしてよ』
「……」
敬語を使って話すのは、ある意味俺にとってささやかな抵抗だった。それすらも禁じられてしまうのか……。だが、言うことを聞かなければ。
「……分かった」
『ねぇ……直人』
急に甘えた声で名前を呼んできた。
「……何だ」
『恵利って呼んでよ』
「……恵利」
嫌々名を呼んだ。
「フフフ……いい気分ね。明日の夜7時にデートするわよ」
常盤恵利は早くも俺に命令してきた――
トゥルルルル……
トゥルルルル……
不意にスマホに着信が入ってきた。
まさか……鈴音だろうか?
緊張しながら上着のポケットからスマホを取り出し、落胆した。着信相手は愛しい鈴音からではなく、俺にとっては絶望的な相手からの電話だった。その相手とは……。
『常盤恵理』
「はぁ……」
見慣れぬ名前の表示にうんざりした溜息が漏れてしまう。いっそこんな電話等出ないで切ってやろうかと思ったが、そういう訳にはいかなかった。何故なら俺は父を……そして川口家電の社員を人質に取られているようなものだったから。
出たくなくても出なければどんな事を言われるか分った物では無い。ため息をつきながら電話に出た。
「もしもし……?」
すると――
『遅いじゃない!』
いきなり大きな声が響き渡った。
「何もそんなに大きな声を出す事は無いでしょう?」
『直人が早く電話に出ないからでしょう!』
常盤恵理は早くも呼び捨て呼ぶ。……今日会ったばかりなのに。鈴音の場合は恋人同士になってようやく自分から言い出して名前で呼んでくれるようになったと言うに、この女はたった半日で俺の事を『直人』と、しかも呼び捨てで呼ぶ。鈴音だってまだそんな風に呼んでいないのに……。
「どうもすみません。電話に気付かなかったものですから」
電話に出ながらマンションへと入って行く。
『まぁいいわ。それより今何してたの?』
恋人の部屋を見つめていました……。いっそ、そう言ってしまえればいいのだが……この女にそんな事を言えば何をしでかすか分らない。鈴音にだけは絶対に手を出して欲しくは無かった。
「これから自分の部屋に入るところですよ」
『え? まだマンションに帰っていなかったの?』
「はい、そうです」
『まさか……元恋人の所へ今まで行ってたんじゃないでしょうね?』
元恋人……。
本当にこの女はイヤな言い方をする。大体俺は鈴音に別れすら告げられていないのに? 自分の中では鈴音と別れた実感がまるで無かった。何しろ最後の別れすら告げさせる事を常盤恵利は許してくれなかったのだ。
「いいえ、そんな事していません。大体抜け目ない貴女の事だ……。既に興信所をつけているんじゃないですか?」
俺は辺りをキョロキョロ見渡す。
『……そんな風に思っているのね……』
「当然じゃないですか。貴女なら何でもやりそうだ」
『ええ、そうね。この際だから言わせて貰うわ。貴方はいわば私にお金で買われたようなものなのよ。だから私の言うことは絶対に聞いてもらうからね? 今後は毎日必ず私に電話を入れるのよ。朝と夜には必ずね。メールも絶対に入れるのよ。1つでもこれを怠ったら貴方の父親の会社は終わりよ』
「……分かりました。どうせ俺には何も意見する事は出来ないのだから」
『……まだあるわ、直人。その言葉遣いが気に入らないわ。敬語で話すのはやめてくれないかしら? 気分が悪いわ。私達は婚約者同士なのだから対等な言葉遣いをしてよ』
「……」
敬語を使って話すのは、ある意味俺にとってささやかな抵抗だった。それすらも禁じられてしまうのか……。だが、言うことを聞かなければ。
「……分かった」
『ねぇ……直人』
急に甘えた声で名前を呼んできた。
「……何だ」
『恵利って呼んでよ』
「……恵利」
嫌々名を呼んだ。
「フフフ……いい気分ね。明日の夜7時にデートするわよ」
常盤恵利は早くも俺に命令してきた――