ハイスペ上司の好きなひと


「え!?ふふふ、藤宮さん!?」


何か泣かせるような事を言ってしまったかと焦ったが変な事は何も言っていない。

それに後輩が先輩を泣かせるなんてあまりにも有り得ないことが目の前で起きていて軽くパニックになってしまった。

どうしようどうすればとおろおろしていると、藤宮が目元を押さえながら「ごめんね」と言った。


「古賀さん…ありがとう」
「え?」
「混乱させてごめんね。…でも、本当に、ありがとう…」
「……」


ーーそうか。そうだったんだ。


藤宮の涙の意味を理解し、焦りがスッと引いていくのを感じた。

彼女は飛鳥の気持ちを知っているのだ。

けれどその気持ちに応える事が出来なくて、彼女なりに苦しんでいたのだろう。

たかが昼食を共にしただけなのに大袈裟だ。

飛鳥は自分に対して特別な感情なんて持ってなんかいない。

今も昔も、女性として愛しているのは藤宮だけだ。

けれどそんな事、目の前で良かったと呟きながら涙する彼女に言えるはずがなかった。

藤宮はその後メイクを直してくると席を立ち、チーム内に1人だけ残った。

人の涙を見てしまうと意外と自身の涙は引くもので、悲しい気持ちだけが胸の中に燻っていた。


ーー不毛だなあ…


飛鳥も、そして自分も。

けれどこれからもこれは変わる事は無いんだろう。

飛鳥がいつまで経っても藤宮を諦められないように、きっと自分もそんな飛鳥への気持ちを捨てられない。

そんなどうしようもない気持ちを抱えながら、ただ静かに時間だけが過ぎていった。




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