ハイスペ上司の好きなひと
「お前分かりやすいんだよ。なんか悪いことでもあったのかよ」
「言わない。どうせ笑われるだけだし」
「ふーん…どうでもいいけど嫉妬で結婚式ぶち壊しにすンのだけはやめとけよ」
「するわけないじゃん馬鹿じゃないの?」
そんなに分かりやすいだろうかと思いながら頬に手を当てる。
特に母からは何も言われなかったけど、兄に気付かれたのはひどく癪だ。
そもそもの話、嫉妬だなんて、そんなもの抱ける程何も始まっていなかったのだ。
勝手に想いを寄せて勝手に振られた、独りよがりな恋だった。
けれど夢のせいだろうか、昨日のように思い出しただけで泣きたくなる感情はもう無かった。
ぽっかりと空いた大きな穴が、そこにあるだけだった。
そうしているうちに煙草に行っていたという父が先に来て、母と一緒に数人の親族が入ってきた。
久しぶりねえなんてお決まりの台詞を交わしながらプランナーと名乗る女性に促され、両家の顔合わせが行われる。
父と母は相手方の両親とは先に顔を合わせていたようで、蒼慈と紫は初対面となる。
炎慈の妻となる女性は優しい雰囲気をした笑顔の可愛い少しだけぽっちゃりとした女性で、派手好きなあの長兄が選ぶ相手として意外で正直驚いた。
花嫁は炎慈より年上のようで、紫を見るなり可愛い妹ができて嬉しいと微笑んでくれ、どこか藤宮と似た雰囲気のその女性に初対面ながら親近感が沸き、義理はつくものの初めてできる姉という存在に少しだけ心が踊った。
その隣で炎慈が「可愛いか?コレ」と鼻で笑っていたので見えない位置で足の脛を蹴ったのは余談だ。