ハイスペ上司の好きなひと
その日の夕方の給湯室。その狭い室内に、女性の笑い声が響き渡った。
「あはは!それはちょっと恥ずかしいねえ」
客先との会議を終え、紫が部屋の片付けを終えて給湯室に洗い物に来ると既に先客がそこにおり、退社前に自分のカップを洗いに来た藤宮とエンカウントした。
お疲れ様と相変わらずの天女のような笑みを浮かべる藤宮に「飛鳥くんとはどう?」などと聞かれ、紫はつい今朝のことを話してしまった。
「まあでも、実は私もちょっと思ってたんだ。飛鳥くん、全然隠す気ないなって」
「えっ」
「今日のお昼もそうだったんだけど、週末に出張が重なる時とかよくソワソワしてる。早く会いたいんだろうなあって。案外分かりやすいよ」
「っ!」
「ああ、けど安心してね。仕事はちゃんとしてるから。そういうところはさすがだなって感心するよ」
私はそんなに器用じゃないから、と藤宮は笑った。
「古賀さんはイヤ?」
マグカップを拭き上げながら、藤宮は柔らかい表情で尋ねる。その問いかけに、紫はトクトクと胸を鳴らしながら少しだけ顔を落とす。
「…ちょっと恥ずかしいですけど、嫌じゃないです」
嫌なわけない。それだけ好きでいてくれているということなのだ。仕事に影響するなら困りはしたけれど、そうじゃないと藤宮が言うなら本当だ。
やはり航輝は自分の憧れたハイスペ上司なのだと、改めて彼へのときめきを感じた。
「…そっかぁ。なら返事は大丈夫そうだね」
「え?」
藤宮の小さな声は紫の耳にしっかりとは届かず、紫は聞き返す。けれど返されたのは柔らかい微笑みだけだった。
「ううん。じゃあ私は時間だから先に上がらせてもらうね」
「あ、はい!お疲れ様でした!」
「うん。また明日ね」