ハイスペ上司の好きなひと
藤宮が去っていき、紫は給湯室に一人残る。
なんとなく引っかかるものを感じながらも回収したペットボトルの中を洗い流す。
ひと通り片付け終えて紫もひと息つこうとストラスブールで買ったマグカップにスティックのカフェオレを入れていると、給湯室のドアがガラリと開いた。
「古賀、ここにいたか」
振り返るとドアを開いたのは航輝で、紫の心臓はどきりと高鳴った。
仕事場では以前と変わらず航輝は紫の苗字を呼び、そのギャップに紫は毎度密かに身悶える。しかしそれを表に出す事はなく、紫は必死にすました顔を作り返事を返した。
「はい。何かご用でしょうか、飛鳥主任」
「悪いがこれから少し出ることになった。2時間ほどで戻るが不在の間の外線対応お願いできるか」
今現在藤宮のチームには新しい事務員は入っておらず、こういったどうしてもの場合のみ紫に仕事が回る。
勿論ですと紫が返すとそれまでとは打って変わり、航輝の表情は恋人のそれに変わる。
「…遅くならないよう家には帰るから、寝ずに待っててくれよ?」
そう言った声色まで甘く変わるものだから、紫は今日何度目かの頬を染める。そして手にしたマグカップを握りながら、ゆっくりと首を縦に振った。
「…分かった。待ってるね」
その返事に航輝は言葉は返さなかったが、甘い表情を残して出て行った。
——もう、本当に心臓に悪い…
こんなに振り回されて、これから同棲なんて続けられるんだろうか。
そう思いながら紫はそっとカフェオレに口をつける。体に籠る熱のせいか、それはいつもよりも余計に熱く感じた。