狐火
「香織って、読書が好きなんだ」

「そうそう。友だちには『本棚至上主義』とかって揶揄されてるけど」

「特に気に入ってる本は?」

「えー、なんだろう。多すぎて選べない。でも小学生の頃は『赤毛のアン』とか大好きだったな」

『赤毛のアン』は、確か読書感想文のために図書室で借りてきたのがきっかけで結構ハマっていたのだ。

「話の内容も面白かったけど、それよりもアンが考えた遊びの方が印象的だったな」

「遊び?」

 ヤコは不思議そうな顔をした。

「そう。本の中でアンと親友のダイアナがそれぞれの家のベランダに出て、ろうそくを光らせる回数でお互いにメッセージを伝え合う遊びがあるんだけど、それを真似してた」

「真似って、友だちと?」

「ううん、姉ちゃんと。夜に廊下の端と端に立って、懐中電灯の光を付けたり消したりしてね。一回光らせれば『今そこにいる?』って意味で、二回だと『また会おうね』っていう意味。そんな感じかな」

 本当にあの頃は良かったなあ。

 ほぼ毎日何も気にせずに遊べて、楽しかった。

 もし私が小学生なら、こんな従姉妹の子守りなんか押し付けられなかっただろうし……。


 しつこく親戚一同への憎しみを募らせている私の心中も知らず、ヤコは感心したように笑顔を浮かべた。

「すごく楽しそう。よくそんな方法思い付いたね」

「いや、まあ……ね?」

 面と向かって誉められることに慣れていない私は、思わずヤコから顔を逸らした。

 そんな反応ですら面白いのか、ヤコは口許を押さえて控えめに笑っている。


 普段は大きい金色がかった瞳が、笑うとアーモンドみたいな形に変わるのがとても印象的だった。
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